あれから何日もたった


日が沈めば寝て昇れば起きてを繰り返し、食べ物は狩るという生活にも馴れた。
江戸で暮らしていたら考えられないようなことが毎日起こり、そして色々体験した。
最初はこんな文明の欠片もない山奥での生活は不便じゃないかと思っていたが、暮らしてみたら別に不便だと思うこともない

そしていつしか俺は、刀一本でそこらの巨大な獣と戦えるようになった。





そして、ついに



『オキタさん、船が来たよ!』

「…了解でさァ」



朝、それはやってきた


グォングォン、と低く唸りながらどこかの国の調査船は空から降りてきた。黒く鈍く光る船底。見たことのない旗。取り合えず地球の近くの国ではないことは確かだ。

その船は山のふもとの少々なだらかな平地にだんだん近づいていく。近づくにつれ激しくなっていく辺りに吹く爆風。舞い上がる土煙。随分と待ちくたびれた。これでやっと帰れるのか、江戸に。


しばらくすると、人の声が聞こえてきた。何人か船から降りるのだろうか。とにかくこれでこの星とも、そして佐奈ともお別れか。

さて、問題は船に載せてくれるかどうか。そしてそれから地球へ送ってくれるかどうかだ。



『良かったねオキタさん、帰れるよ』

「…ああ、」

『?どうしたの?』

「いや、多分この船は地球には寄らないと思いまさァ。どうするかねィ…」

『次の船が来るまでもうちょっとうちにいる?』

「バカ言ってんじゃねえやィ」

『冗談だよじょーだん。あ、でも、簡単にチキュウに送ってもらえる方法ならあるよ』

「…なんでさァ」

『私が行けばいいんだよ』

「は、」

『うん、よし、そうしよう。私が行けばきっと船の人もチキュウまで送ってくれるよ』

「バカかお前」

『バカじゃないって』



つまり自分を犠牲にして代わりに俺を地球まで送ってやる、とでも言いたいのかこいつは。確かにそれなら帰れるかもしれないが、でもそんなこいつを犠牲にしてまでなんてごめんだ。

それなら次の船まで待つほうが幾分かマシだ。どうせまた10日ほど待てばいい話。ここまできたらもう焦りもしない。帰れればいいのだから。


しかしそんな俺の意見を聞く間もなく、佐奈は船の下で何やら会話をしている数名の軍人のほうへと駆けていった。おい、ちょっと待てって。人の話聞けって



『ねえ、軍人さん』

「っ、誰だ!貴様!」

『私?私はえーっと…』

「おい、佐奈っ、勝手に走って行くんじゃねえやィ」

「質問に答えろ!」

「誰だ、と聞いているんだ!」

『みんなさ、私を捕まえに来たんでしょ、ほらっ』


ザシュッ!!


「なっ……!」

「これは…!!」

『ね?』

「…やっぱバカでさァ」



わざわざ自分から正体をバラす必要はないだろ。今、こいつは、その軍人の目の前で近くにあった木を斬ったのだ。その、こいつにしか扱えない独特の水の力で

軍人は呆れるぐらいに放心状態になり気が抜けている。誰かの構えている銃がガシャン、と落ちた。情けねえな、こいつら


すると佐奈が小さく、俺にしか聞こえないような声で「任せて」と呟いた。ガキが偉そうに。何言ってやがる。

しかしこいつの顔はなんだかいつもと違うくて。ほんの一瞬、一瞬だけ、悪巧みをしているクソガキのような笑顔を浮かべた。それはもう、少なくとも素直に自分を犠牲にする奴の顔ではなく。何か企んでやがるなこいつ

少しだけ様子見してやるか



『どう、私でしょ?目的は』

「き、貴様が……、生き残りの……」

「くっ、すぐに捕らえろ!」

「全兵出動だ!」

『あ、ちょっと待ってよ。別に無理矢理捕まえなくても、ちゃんと私あなたたちについてくよ?』

「、は?」

「な、にを言ってるんだ貴様!」

『だから大人しく捕まるって言ってるの。でもね、その代わり、』

「なっ、な、なんだ!」

『チキュウにちょっと寄ってほしいんだ。この人がチキュウから来て帰られないらしくて。それなら私、ついてくよ』

「っ、ちょっと待て!上に掛け合ってみよう!」



そう言うと軍人は全て船へと駆け登って行った。どんだこ頭悪いんだこいつら。普通こういうときは一人でもこの場に残っていないと俺らが逃げ出すかもしんねえのに。それとも単にパニクっているだけか。まあ、どっちにしろ俺にとっては都合がいい。



「おい、」

『なに?』

「どういうつもりでィ」

『なにが?』

「本当にお前、あいつらに捕まる気かよ」

『んなわけないじゃん』

「じゃあどうすんでィ」

『私もチキュウで降りる』

「は、?」

『こっそり私もチキュウで降りるの。あの人らには悪いけど』

「今まで散々殺しておいてよく言うやィ」

『オキタさんの話聞いてたら私もエドってところに行きたくなっちゃってさ』

「…バッカじゃねーの」

『オキタさんは帰れるし、私は行きたい所に行けるしラッキーだね』

「一石二鳥って訳か。まあそれもありでさァ」

『やったあ、じゃあチキュウに着いたら、案内してね』

「さあ、どうですかねィ」



なるほど。そういう手か。佐奈は捕まることなく行きたい所に行け、そして俺は江戸に帰れると同時に、


佐奈と離れずに済む





(中々考えたじゃねえか)(でしょー?)



――――――――――――

長っ!
とにかくその一言に尽きます

何か書きたいことを書きたいままに書いたらこうなりました(汗
あれです、空から降ってくる沖田くんを常識はずれのヒロインが受け止めるというシーンを書きたいがために話を作ったんです←


長々と読んでいただきありがとうございました^^


page 17/22
prevnext
戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -