『オキタさーん、起きてー』



ぼおっとした頭と耳に澄んだ声が響き渡った。ぼんやりする目を無理矢理開けば眩しい光と共に人の影が視界を埋める

脳が覚醒すると同時に広がる記憶。昨日起きた事実。思い出す現実。



「……」

『おはよ、オキタさん』

「……今何時でィ」

『朝だよ』



所々ぴょんぴょんと寝癖で跳ねた髪と笑顔を引き連れ洞穴内にやたら元気な声が響いた。くそ、こっちは朝弱いんだ。

あの後すっかり寝てしまったようだ。てかあんなに早い時間に寝るなんて生まれて初めてな気がする。睡眠時間をたくさんとったおかげか、まだ朝早くにもかかわらず寝起きは以外と良かった。すんなりと体を起こすことが出来る


外を見れば雨はすっかり止み、太陽の光が辺りを照らしていた。水溜まりや葉についた水滴がキラキラとキレイに反射している。回りの情景から、改めてここが山奥なんだと実感させられた



「腹減った」

『今から朝ごはん捕まえに行くよ』

「は?」



捕まえに?、と聞く前に腕をグイッと引っ張られた。少し遅れてついていく体。おい、顔ぐらい洗わせろ。


ピチャッピチャッ、と所々にある水溜まりの水面を4つの足が跳ねていった。ズンズンズンとどんどん山奥へと進んでいく。せめてもうちょっと道らしい道を通させてくれ。小枝が軽く頬を切り裂いた。



「おい…、」

『よし、ここでいいや』

「なにすんでィ」

『捕まえるの』

「何を」

『朝ごはんを』

「っ、」



その瞬間に気配。獣の。背後に。

ザサッ、と構えて腰の刀に手をやる、がない。刀がない。しまった、昨日寝る前に洞穴に置いてそのままだ。くそっ、刀がなければ何も出来ない。



「おい、後ろ、」

『うん、知ってるよ』


ガアァアアアアアァァア!!!!



そんな会話をしていた刹那、気配だけしていた獣が姿を現した。ベースは虎で後は鷹と象を足したような見たことのない生き物。大きさは裕に3メートル以上はある。



「ちっ、!」

『やったあ!よーし…』



いち早く行動に移したのは佐奈だった。明らかに自らの数倍はあるような生き物へと素早く突進する勢いで駆け抜けていき、そして先制攻撃となる一撃を急所へと決めた。純粋に、そして力強い一撃。それはこの世にいる誰にも真似出来ない、正に彼女だけの力、水狐一族の。

鉄砲玉のように打ち出した体。の回りに生き物ようにまとわりつく水。それはいつしか何ににも負けない武器となり牙となる。



ズシャァァアァァッ!!!!



そんな何かが弾け飛ぶような音がして、佐奈の「朝ごはんを捕まえる」という行為は終わった。

要するに狩りだったのだ。



「うまいのかィ、そいつは」

『焼いたら食べれるよ』

「火でも起こす気かよ」

『頑張ったら起きるよ』

「バカか」



先ほどまでの狩る者の目はどこへやら。そこに居たのはどこにでもいるただの少女だった。まあ後ろにいる倒された化け物みたいな獣が全てを物語ってはいるが。


しかしやっぱり無邪気は無邪気で。


その咲き誇るような明るい笑顔に少し心が動いたのはきっと気のせいだ。

続く→


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