「あ、佐奈ちゃん」
『なに?山崎君』
俺は山崎退。江戸の平和を守る警察、真選組で監察をしている。
そしてこの子は中田佐奈。真選組の女中をやっている。
清楚で素直な性格から皆に好かれていて、それで、あの、
俺の大切な彼女
俺には勿体ないくらい可愛くて優しくてとにかくモテる。ただ最近はそのモテる、ということが少し不安だ。
「これ、女将さんからのメモ」
『あ、そうだ買い物に行かないといけないんだった。ありがとうね』
「うん、行ってらっしゃい」
女将さん、というのは女中を率いる食堂担当のおばさんのことだ。あの人優しいけど怒ると怖いんだよな…
佐奈ちゃんは主に掃除と買い出しを担当していて、こうして食堂担当から買う物リストを受けとり買い出しによく行っている
出会いもそれで、俺が副長に頼まれてマヨネーズを買いに行く時に手伝ってくれたのだ。思えば俺はあの時から惚れていたのかもしれない
佐奈ちゃんが小走りで買い物に行くのを見届けてからある物に気づく
地面に放りっぱなしにされた竹ホウキとちりとり
佐奈ちゃんが片付け忘れた物だ
仕方なく代わりに俺が片付ける。後で佐奈ちゃんが怒られたら可哀想だもんね。やば、俺って彼氏っぽいかも。いや、彼氏なんだけどね。
「なーに、ニヤニヤしてんでさァ」
「ふ、隊長!?」
突然後ろからかけられた声。驚きつつも振り向くとそこにはアイマスクをでこにつけたままの沖田隊長がいた。い、いつからそこにいたんだろう…。てかまた仕事サボって寝てたのか。
隊長は人のことを言えないぐらい悪ガキみたいな笑みを浮かべながら、俺の手にある掃除道具をジロジロ見てくる
そしてまたニヤーッと笑った。何か感づいたな、この人。
「なるほど、また佐奈が片付け忘れたんですかィ」
「はい。…って、また?またってなんですか」
「前も片付け忘れてたんでさァ。まあその時は俺が片付けましたけどねィ」
少しショックを受けた。こんな風に言うのもあれだがこういう彼女の失敗の後片付けは彼氏の特権だと思っていた。それを見透かしてわざわざ沖田隊長は言ってきたのだろうか。恥ずかしいを通り越して少し情けない。
これも最近の不安の1つだ。佐奈ちゃんは誰にでも優しく人当たりがいい。そのせいあって色んな人から好かれていた。
沖田隊長もそうだ。彼女の何が気に入ったのか知らないが佐奈ちゃんにしょっちゅうちょっかいをかけているのをよく見かける。局長もあの副長も、おそらく彼女を気にかけている。
最近、彼女が本当に俺のことが好きなのか不安だ。なんだかんだ言ってももう付き合って2年になる。だけど仕事柄もあって中々一緒に過ごすことが少なく、そして最近は特に彼女の口から「好き」という言葉を聞いていない気がする。
それに重なって彼女の人気。俺に釣り合わないぐらいの可憐な外見。不安要素は山積みだ
「んなあらかさまにショック受けなくてもいいじゃねえか」
「……はあ」
「ま、それよりも明日は佐奈の誕生日だろィ?山崎は何か買ったんですかィ?」
「あっ、いや、まだです。ちょうど休みなんで明日買いに行こうかと」
「ふーん…。じゃあまあ頑張りなせェ」
じゃあな、と言って沖田隊長は俺に背を向けて手を降った。てかちゃんと仕事してくださいって。隊長が歩いて行く方向には自室がある。こりゃあまた副長の機嫌が悪くなるな
そしてさっきの話にも上がっていた通り明日は佐奈ちゃんの誕生日。もちろん彼氏である俺はプレゼントを買うつもりだ。まあ当たり前だけど
でも取り合えず今は仕事に戻らないとね。
――――――
―――――――――……
「おい、中田」
急に声をかけられた。少しびっくりしつつも後ろを振り向く。そこに居たのは、鬼の副長と恐れられている土方さんだった
『あ、どうかしましたか?』
「いや…。ほら、これ、…やる」
『えっ』
そう言って半ば放り投げるようにして渡されたのは小さめの紙袋。開けていいですか?、と許可をとってから慎重に袋を破くと中からは可愛らしいかんざしが出てきた
『これ…、私に?』
「ああ、お前今日誕生日だろ」
そういえば、そうだった。確かに今日は自分の誕生日。でもなんで土方さんが私に?わざわざ真選組の副長が女中に誕生日のプレゼント渡すなんて。マメな人だ。
世間では鬼の副長なんて言われてるけど実はマメなんだね、とそう考えたらおかしくなってクスリと笑った。そしたら土方さんが私の顔を見て一瞬不機嫌そうな顔になった。あ、ごめんなさい
『ありがとうございます土方さん。大事にします』
「ああ」
『あ、あと山崎くん見てませんか?』
「見てないが…、どうかしたのか?」
『いや、昨日私の代わりに掃除用具を直してくれたらしくて』
そう、沖田さんが言ってた。私はどうやらまた掃除用具を片付け忘れていたらしい。そしてそれを山崎くんが直してくれたそうだ
相変わらず優しいな、山崎くんは。そういう所が好きだった。みんなは地味だというけれど誰よりも優しいんだよ。私だけが知っている、大好きなあの人のいい所。
「いや、見てねえが…」
『そうですか』
「てか、それよりもお前。山崎からプレゼントはもらったのか?」
プレゼント、そういえば山崎くんは去年私にケーキを買ってくれたっけ。ホールじゃなくてカットされたケーキを2つ。他の隊氏にバレないように2人でこっそり食べたのがいい思い出だ。
別に高価なプレゼントじゃなくても私の誕生日は山崎くんがいればそれで充分。てかむしろ付き合っているだけでも嬉しいぐらい。そう土方さんに言えばバカかお前、と飽きれ顔で返された。いや、だってこれが私の本音なんだもの
「お前には欲ってものがねえのか。年に一度なんだからちょっとは何か山崎にねだったらいいだろ」
『そう言われてもですね…、特に欲しいものもないですし』
「嘘つけ。何か1つぐらいあんだろ」
『そうですね……』
私の……、欲しいもの
――――――
―――――――――……
うーん、どうしよう…
さっきから目に映るは色とりどりの女の子らしいアクセサリー。どれもキラキラと光っていてとてもきれいだ
佐奈ちゃんの誕生日プレゼントを買いに来たはいいけど、何がいいのかが分からない。今もこうしてアクセサリーを見ているけど仕事柄付けていたら邪魔になるかな…
そもそも佐奈ちゃんが何が欲しいのかが分からない。あんまり欲しいものとか聞かないからなあ
ケーキは去年買ったから、また今年もケーキってわけにはいかないし。てか去年の誕生日プレゼントは少しひどかった気がする。もっと良いものを買ってあげたかったし、あんなにこっそり食べたなんて楽しくもなにもなかっただろう。せめて今年は思い出になるようなものをあげたい。
と、なるとじゃあ何を買えばいいんだろうか
着物、は少し重すぎるしかんざしとかだとベタだし。こういうのって本当何をあげれば女の子は喜ぶのかが分からない。身の回りに相談出来る人もいないし、やっぱり自分で決めるしかない。じゃあどうする?何にする?何にすればいい?
そう考えて頭をうーんと唸らしていたら突然声をかけられた
「って、副長!?」
「なにやってんだお前」
「あ、いや……」
一瞬何で副長がこんな所に?と思ったがよくよく考えたらここは市中見回りのコースに位置する。そういえば今日は副長が見回り当番だっけな。
でもわざわざ店の中にいる俺に声をかけてきた理由が分からない。いくら姿を見かけたからとはいえいちいち声までかけるだろうか。いや、普通はかけない。じゃあなんでだ?
「ど、どうしたんですか?」
「お前、今中田へのプレゼント何にするか悩んでるだろ」
「えっ!なんでそれを…」
「じゃあいいことを教えてやるよ」
そう言う副長はどこか上機嫌だ。何か良いことでもあったのだろうか。
ニヤリと笑った副長は俺に少し近づいてあることを呟いた
―――――――
――――――――……
「佐奈ちゃーん!!」
『えっ!』
今日はよく声をかけられる日だ。でもこの人は声だけでわかる。山崎くんだ。
『山崎くん』
「はあ…はあ……、良かった、やっと見つけた…」
『あの、昨日はありがとね』
「へ?」
掃除用具、と言えば山崎くんはどこか困ったように笑いながら気にしないで、と言った。やっぱり山崎くんらしい
走ってきたらしく乱れた息を整える山崎くん。でも何か様子が変だ。少し目線を落としたかと思えば次は少し上げて。 何か変。
「あ、あ、あ、あのっ……!」
『?どうしたの?』
「お、おおおお俺と結婚してください!!」
『えっ!?』
突然叫ばれた予想だにしていない言葉。ってえ?けけけけ結婚!?え?結婚!?
ガバッと下げた頭をおそるおそる持ち上げてチラッとこっちを見てくる山崎くん。返事待ちだろうか。返事って……、そ、そ、そんなの…………
「あ、あの……」
『こっ、こ、ここここちらこそよっ、ろしくお願いします!!』
「えっ!?」
『えっ!?』
えっ、と2人で同時に言って顔を見合わせた。少しびっくりしたような山崎くんの顔。多分私も同じような顔をしているんだろうな。そう考えたらおかしくなって、そして2人で一緒に笑った
ほしいもの
(強いていうなら山崎くんの名字が欲しい……、なんてね)
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駄文ですがゆりさんへ捧げます!
山崎の夢を書くのは初めてなのでとっても楽しかったです^ ^
それでは素敵なキリリクありがとうございました
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