しまった。しまった、というのは正確ではないのだが、とにかく俺は故意にしろそうでないにしろ、本来手元になければならないはずの課題プリントを手にしていなかった。自分のせいであるとかそうでないとかは二の次だ。このままではまずいことは明確だった。
 そこで、彼なら、という考えに行きつくのはもはや空気を吸うことよりも当たり前になっていた。当然のように歩み寄ってひらりと紙を奪う。
「だめだよ」
 彼は些か不機嫌そうに言って、取り返したプリントを目の前で揺らした。口で取れ、そうしたら写させてやると言われればその通りにするだろう。しかし彼がそんなふざけたことを口にする確率は俺がきちんと期日までに課題をやり終える確率よりも遥かに底辺を行っている。つまり絶望的だ。
「三重内……」
 切なげな声を出してみるがさっさと次の授業の準備を進めている三重内の耳には届いていないらしい。届いていたとしても答えてくれる確率は、彼がプリントを口で取れという確率よりもずっと低いだろう。
「……これっきり、ね」
「えっ、ありが」
「口で取って」
 そう言われてから手渡された紙を受け取るまで、俺はしばらく息の吐き方を忘れていた。これっきり、と何度言うつもりなのか。そういうところが好きだって、何回思わせるんだ。
   
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