多分、何を言っていいか分からなくなりそうなので手紙を書きます。少し長くなるかもしれない。申し訳ない。住み慣れた場所を離れるというのは大変だし、うまくいかないこともたくさんあると思う。それでも黄整さんなら何とかなるんじゃないかと俺は思ってる。適当に言ってるわけでも投げやりになってるわけでもない。俺はそう思ってる。俺が黄整さんに初めて会った時も、黄整さんはそうだった。どうしようもないことで悩んでいた俺に、どうしようもなく優しい言葉をかけてくれた。俺は昔から友達は選べと言われていた。だから、黄整さんと会った時もずっと悩んでいた。黄整さんと俺は何もかもが違う。家柄とかそういうことだけじゃない。心とか、気の持ちようとか、そういうことでも俺と黄整さんは違っていた。いつでも自由にふるまう黄整さんが羨ましかった。黄整さんは俺にないものをたくさん持っていたから。黄整さんと知り合って初めて、一緒に過ごす人が増えた。黄整さんはその真ん中にいた。少なくとも俺にとってはそうだった。黄整さんからしてみれば、俺と会ったことは通過点でしかないんだろうと思う。いつか忘れてしまうかもしれない。いらない出来事になるかもしれない。でも俺は黄整さんに出会えてよかった。いろんなことを知った。外はそんなに物騒じゃないってこと。家にこもっていては分からないこと。友達が優しいってこと。たこ焼きは美味しくて、通天閣は高くて、街は騒がしいってこと。俺は俺の人生にたくさんの物を置けたと思う。大事なことだと思いたい。大切にしたいことだから、俺は忘れない。黄整さんにとっての通過点でも、俺にとっては終着点でもいいと思えるくらいの素晴らしいこと。忘れたくないから。黄整さんは東京でたくさんのことや人や物に出会うんだと思う。それは黄整さんの意思で拾っていくべきだし、大切にしてほしい。だけど、こっちで過ごしたこと。友達がいたこと。忘れないでほしい。何かあった時に思い出してほしいし、何もなくても忘れないでほしい。黄整さん。友達として選ばせてくれてありがとう。友達にしてくれて嬉しかった。黄整さんの人生に少しだけでも置いてもらえて、俺は嬉しかった。 それからやっぱり、黄整さんならうまくいかないことなんてないと思う。黄整さんは優しい人だから。向こうに黄整さんを待っている人がいるかもしれない。新しく大切な友達ができるかもしれない。だけどそうなっても、もし、俺が会いに行ったときは、もう一度俺と出会って俺を友達にしてほしい。それだけのことで、俺は明日、黄整さんを笑って送り出すことができるから。約束じゃない。それはきっと黄整さんを困らせてしまう。そういうことを言っていた人間がいたと時々思い出してくれたらそれでいい。それも億劫ならせめてこのことは、胸の隅に置いてほしい。この街はいつでも黄整さんの居場所を空けて待っているから。きっと、何年経っても暖かいままの場所であるから、それは忘れてはいけない。本当に長くなりそうだからこのあたりで切り上げます。さようなら。 紫頭隼太

P.S 青バラの花言葉を知っていますか? あなたに贈ります。


上京前日


   
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