ヤオチョーを持ちかけた、と。やけにのろのろと綴られた字が目に刺さった。それから彼はすっと顔を上げて許しを乞うように僕を見つめる。
「……なんで?」
 ママが、と書いた字がぐしゃぐしゃと消された横にお母さんが、と書かれ、続けて雷門中のキャプテンの名が並んだ。
『内申が』
 続きを書こうとした手を取る。からりとシャーペンが落ちた。
「黙っててあげる」
「あ……?」
 じゃあ、と発せられた彼の声を聞くのは随分久しぶりな気がした。彼は胸ポケットから紙幣を取り出し、僕に差し出した。
 それじゃあママと同じだよ、なんて言ったらきっと彼を泣かせてしまうのだろう。
 僕はそれを受け取った。使う気なんて毛頭ない。ズルを重ねたら何になる? 誰も教えてくれない。
(雅岡と一筆)
(筆談)



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