カシャン、と固い音が部屋の沈黙を破った。
 携帯から目を離し暗い部屋の奥に目を凝らす。彼の苗床と化した椅子はぴくりとも動かず、声をかけてみてもこちらに意識を向ける気配はなかった。
 立ち上がって足の踏み場を探しながら彼に近付く。道中何度か得体の知れない何やらかんやらを踏みつけながら部屋の奥へとたどり着き、うつ向いた顔を覗き込んでみた。
 くまの酷い目は閉じられ、その口がくわえていたはずの飴はパソコンのキーボードの上に転がっていた。どうしたものかとポケットに手を入れると小さな箱の感触がある。そこから1本取り出し、火はつけずにうっすら開かれた唇に差し込んだ。
(なーんて。)
 似合うと言ったら怒るだろう。禁煙、と手書きで書かれた紙が壁に貼られている。
 彼からそれを取り返し口にくわえ、火をつける前に気付いた。甘い。
(マフラーとハッカー)

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