アップに堪えかねたらやめよう。そんなことを考えながら彼の顔の耳辺りをガッと両手で掴んだ。当然のように焦る彼の鼻の下は、よく見たらがさがさになっていた。だから保湿ティッシュを使えというのに。この前なんかトイレにこもってトイレットペーパーで、ってそんなことはどうでもいい。だって春だし。
 ゆっくり顔を近付けると、僕の真意に気付いたのかそばかすの周りが微かに赤くなった。わあ、と声を上げるなり手首を掴んできた手を払いのけて唇に噛みついてやると、彼は情けない息を漏らして必死にのけぞる。そして肝心の顔面アップなのだが、懸念の必要はなかった。平気などころか悪くない。
 口を離してすぐ、好きだよ、と囁く。途切れがちに僕を呼んだ唇が次に紡ぐのはきっと『もう一回して』だ。そうに違いない。春だし。
(飯谷と堀江)



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