彼はなかったことにしろと言うのだ。僕が彼と会ったこと。その他なにもかも。
 人に戻った、とそれだけ告げて彼は電話を切った。虚しく響く音をぶらさげてストラップが小さく揺れる。
「シカくん」
 僕は祈った。彼がそうしろと言ったのだから。それでも、思い出そうとした。頭の良さそうな。
「……」
 頭を抱えて目をきつく閉じた。頭の良さそうな響きだった、気がする。そんなことをぼんやり思い出しただけで、僕はあれほど反芻した彼の名前を忘れてしまっていた。
(中谷とシカ)



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