私はまた、愛しい人を傷つけたのだ。
大切な大切な存在であった。こんな自分をパートナーとして認めてくれた主、で。なのに私は、彼女を傷つけ続けるのである。そう分かっていても出ていく事すらできぬ私を、貴女は笑うだろうか。(あぁしかし、私の頭に浮かぶのはマスターの困ったような優しい笑顔だ)(私は貴女を困らせたいわけではないのに)


真っ暗な闇。自らの手すら見えぬ闇の中で、縮こまるかの様に座っていた。昔、たった独りで。あの島でずっとずっと、気の遠くなるような長い時間こうして過ごしていた事を思い出した。記憶の中の彼の場所と重なり、今自分がどこにいるのかさえも少しずつあやふやになってゆく。それは記憶なのだと分かっていても、どくん、と。心臓がうるさく音をたてた。
あぁ、貴女を力一杯抱きしめたい。抱きしめてその心音を聴くのだ。(それは泣きたくなる程に優しい音)





ダーク、と自分を呼ぶ声が聞こえた。直後、目の前の扉ががらりと勢い良く開かれた。眩しい光が差し込み、思わず目を細める。闇になれた目は明るい光を受け止めきれず、そっと視線を逸らした。


「やっぱりここにいた。」


少しだけ笑いを含んだ様な声でいった彼女の表情は、逆行となった光でよくは見えなかった。


「押入れなんかに引きこもってないで出ておいで、ダーク」


どうしたの、と優しい声がたずねる。その声に全てを話してしまいたい衝動にかられるが、だがそれは只の懺悔であるのだと理解していた。


「ナイトメアのこと?」


ひくり、と体がはねた私は馬鹿だ。大馬鹿者だ。彼女の言葉に無意識に素直な反応を示した自分が、もう末期であるのだと。しかしそれすらひどく心地良い物に思え、そんな自分に更なる思考の悪循環に堕ちる。


「ねぇ、ダーク」


彼女の唇が、ゆるゆると言葉を吐き出す。それは甘く、けだるく酔わす美酒の様に感じられた。


「その事に罪悪感を感じているのなら大丈夫よ。」

「だが、」

「ダーク」


急に真剣になった彼女に思わず口を閉ざした。そっと表情を見れば、にこりと笑いかけられる。


「たとえ悪夢であったとしても夢は夢。この私を損なわすことなんてできやしないのよ。」


そう言って彼女は笑う。まるでこの世に何も心配などないのだと言うかのように。根拠のない自信など、と吐き捨てることは容易だった。だが彼女は。その笑みにつられて思わず少しだけ微笑むと、彼女は満足そうに笑った。





ほら、と渡されたカップを受け取る。温かいココアが湯気をたて、甘い香りを部屋に満たした。



世界は君を愛しているよ





090924
わらべうたのやまだ様への相互記念の捧げ物(リク:引きこもりダークライを説得しちゃおう☆)
相互有難うございました。やまだ様のみお持ち帰り可です。











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