(リザードン)


苦しかった。

辛かった。

息ができなくて、ぎゅっと胸を押える。ひゅう、ひゅう、と咽が鳴るのを聞いて、あいた片手で壁を殴った。
泣きたいのに、涙は流れなくて、もどかしい。
否、泣きたくなんか、ないのだ。

「――主、」
「うるさい」

黙れ、黙れ、と繰り返す。
あたりは一面、血の海で。昔は血を見るのが怖かったのに。今では、平気だ。
平気どころか悦びにすら変わってしまって、それが苦しかった。
自分の手に、服に、肌に、
飛び散った血しぶきに泣き叫んでしましそうになる。

 私 が、  殺   し た 。

「主、殺めたのは、主でなく俺だ。主の意志ではない。俺の意志だ。だから、主の罪にするな。俺の、罪にしろ」
「――っ!」

どうしてなんだろう。

涙が、あふれた。



あれから時は過ぎ、

091014



×