22

戦闘が終われば、待つのは片付けのみである。
船員達が忙しげに動き回る様子を横目に、私はグウェンダルの船室に呼び出されていた。
目の前に出された紅茶はすでに冷め切っている。


「それで」

「眞魔国に到着するまで、申し訳ないが窮屈な思いを強いることになる」


彼の前に呼び出された理由は明白だった。危険人物として見なされた。それだけだ。
戦闘を指揮し、形成を逆転したのだから感謝されてもいいとは思うが、それとこれとは話が別なのだろう。
だがここまではむしろ読み通りだった。当初の目的を果たしたといってもいい。

しかし一つミスを犯したとすれば、簡単ではあったが拷問を行った男の死体を自室に残したままにしてしまったことだった。
見る者が見れば何が行われたかなど一目瞭然の死体を片付けたのは、都合の悪いことにヨザックだった。

それがこの1対1の個人面談状態になった要因の大半を占めているといっていいかもしれない。

私の背後の扉ではヨザックが退路をふさぐように立っている。殺気だったその様子に、彼との関係が振り出しに戻ったかそれ以下に悪化したことを知る。
別に不都合はないのでそのまま放置しているが。忠誠心やら警戒心が強いことはいいことだ。

私にとって本来のの目的、つまり海軍の信頼を得ると言うことはあらかた達成出来ていると言っても良い状態である。
それを踏まえての交渉であるから、グウェンダルも苦労しているのだろうが。


私の処分は様子見だろう。船室から出るなと言うことはそういうことだ。眞魔国についてからもしばらくは自由には出来ないだろう。
それでもどこぞの顔の知らぬ王の代わりにされるよりかは幾分気分が良い。


「そう思われるのでしたら、早めに帰れる様にして頂けると助かるのですが」


私にもやるべき事が多いので。にこりと笑って向き合えば、グウェンダルの眉間の皺が一層深くなった。





目の前で自分の上司と向き合ってにこにこと話すラシャに、警戒と言うよりも本能的な恐怖が勝った。
ヨザックの視線を受けたラシャが一度こちらに視線をよこしたのは感じたが、またすぐにそらされる。まるでヨザックのことなど気にもしていないというかのような態度に、唇をかんだ。

圧倒的な強さ―というよりも、戦略を見せつけられた事により、兵達のラシャに対する支持は上がっている。
支持というよりも一般兵からはあこがれや羨望と言った気持ちの方が多いのかもしれない。だからこそ厄介だった。

言ってしまえば部屋に監禁するということに、何の感慨もなく頷いたラシャもそれを分かってるのだろう。


彼女の部屋に転がっていた死体を片付けたのはヨザックだった。
明らかに拷問されたと分かるそれに、自分の顔が歪むのが分かった。自分自身も拷問位したことはあるし、されたこともある。
しかしその視点から見ても容赦のないそれに、薄ら寒いものを感じた。

それに加え先ほどの無駄のない戦い方(あれは自分が戦うというよりも、その事により人を動かして戦うやり方だ)、グウェンダルとの交渉。


厄介だ。心中で再度思う。
それでも彼女の護衛―監視役は、ヨザックが続けることになっていた。




130307
ヨザックに怖がられた


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