25 夜空の見える天井を茫然と眺める。望みもしない入学式である。 そもそもわざわざ夜にやる意味がわからないがそこはよくわからない古き良き伝統とやらなのだろう。 前も後ろもわからない新入生たちは期待と夢に心を躍らせる。それは1学年上へとあがった在校生たちも同じで、新しい後輩に視線を向けたり笑顔を向けたり、果てはいたずらをしようとする物までと騒がしい。 ちなみに暇にまかせて今日までにあらかたの教科書は読破した。正直11歳の子供用の教科書など分からなかったらそれこそやばい。そんな私には正直1年からやる意味が分からない。飛び級制度はないのか。 ざわざわと落ち着きのない周りの様子にひとつ溜息をつく。精神年齢がとうに20を超える身としてはここで友人関係を作っていくのは非常に難しそうである。もとよりあまり作る気もないが。浅く広く付き合うにしてももはやジェネレーションギャップの起こりそうな域である。 腰につけているモンスターボールの中で、ラグラージが鬱陶しそうな目で彼らを見つめているのが分かった。誰よりも優しい彼は、しかしあまりこの年代の人間の子供を好まない。私自身もその年齢にまで落ちてしまったのだが。この年の子供はあまりにも精神が不安定であり、未熟だ。己の感情すら制御できない生き物ほど厄介なものはない。もとより静かな環境を好むラグラージにとってはこの空気はあまり落ち着く様なものではないのだろう。 メタグロスも騒がしい環境はあまり好きではないのか、静かに瞼を閉じていた。反対にリザ―ドンは懐かしそうな目で周りを眺め、物珍しいのかぴょこぴょことボールの中ではねるリオルを諫めている。 小さな子供たちに囲まれ、流されるようにやってきた大広間。彼らは長旅での疲れもなんのその、おしゃべりに夢中である。私は列車にも乗っていないにも関わらずもう疲れてきた。帰りたい。 意味のわからない音程最悪な校歌を歌った後、組み分け帽子とやらでこれからずっと過ごす寮が決まるらしい。上級生たちの視線が痛い。 しかしこの制度、寮の特色だかなんだか知らないが、同じ思考・思想を持つ者のみの集団ができあがるやり方にはうすら寒いものすら感じる。その団結力だか思考だかが変な方向に暴走しないといいが、新しいものを入れることでの改革は決して存在しない。 というかプライバシーも糞もないこの決め方は正直不快だ。ある程度は自分で寮を選ぶ権利くらい生徒にはあってしかるべきだ。私はともかくみんな高い学費払ってんだし。 そんなことを考えていればあっという間に私の順番は回ってくるわけで、高々と名を呼ばれ、生徒の視線が集まる中前へと進む。椅子に座れば汚らしい古い帽子をかぶせられ、そのほこり臭さに顔をしかめる。誰かファ●リーズ下さい。リオルが私の心の波動を呼んだのかふぁぶ?とかわいらしく首をかしげたのが見えた。癒しだ。 「ふーーーーむ」 「………。」 「難しい、実に難しい」 「………………。」 帽子は何かもったいづけてそう大声で叫ぶと、小さな声で私に話しかけた。おまえさん、一体何を隠しているのかと。 「別に何も隠してなんかいませんよ」 「仲間の為ならば努力も惜しまぬ、勇猛果敢に戦う本質、そこはまさにグリフィンドール、しかしその過程では手段も犠牲も厭わない。その狡猾さ、残酷さ!」 「へー」 「お前さんにとっての仲間とは何だね?」 「さて」 仲間など、私を決して裏切らず、どんな修羅の道にもついてきてくれた彼ら以外にはありえない。なりえない。浮かぶのはシロナさんや他の四天王、ダイゴ達もいる。しかし彼らは私の大切な人々ではあっても、仲間ではない。私の“仲間”が危機に瀕した時、私は迷わず彼らを切り捨てるのだろう。私の手のひらはそこまで大きくはない。多くのものは背負えないし、そもそも背負う気すらない。ボールの中で、レントラーがふんと帽子をあざ笑うように鼻を鳴らした。 「それはプライバシーの侵害じゃないかな」 「それが私の役目だ」 「そう」 「最後に一つ」 「手短にね」 「……お前さん、魔力はどうした?」 「…さて、どう思う?」 これ以上の会話はぼろが出るか、と思ったところでスリザリン!と高々に叫ぶ帽子。話を聞く気のないであろうそれを床にたたきつけて席を立ち、拍手かっせいのスリザリン寮へと歩みを進める。反対に、グリフィンドールや他の寮からの視線は鋭い。前途多難である。 120802 bkm index ×
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