▼夜のランタン



今思えば、バギーが名前と共にいたのはほんの短い期間であったと記憶している。
なつかしく思い出されるそれらは、今もバギーの根本を形成しているに等しかった。





「今日も行くのか?」
「そうだなァ、なんだ寂しいのか坊主」
「そうじゃなくて、だって名前は何にも知らないじゃねーか」

今晩もベットを抜け出そうとした名前に、バギーは純粋に首をかしげた。彼は強い、しかし驚くほど常識に疎かった。名前が違うところからきたということは簡単には聞かされていたが、バギーにはそれすらもあまり現実味がなかった。
バギーの中では名前は何も知らないが強い男で、賭け事が好きで、毎晩賭博場や酒場を渡り歩いている、世間から見れば所謂「駄目な大人」だった。

「酒場はどこも変わらないんだ、だからいい」

どこを見ているのかも知らない瞳でそう言われれば、バギーには止めるすべはない。このまま置いていかれるという心配こそしてはいなかったが(なにより面倒見の良い男である)、何かに逃れるかのように酒場に入り浸る姿はあまり好きではなかった。

「子供に見せるもんじゃねーだろ」
「駄目な大人だからなァ、こうはなるなよ」

からからと笑う名前に反省の色はない。こうやって海賊から金を巻き上げて、次の街へ渡り、また同じことをして生活をする。バギーはそれについてまわり、生きる術を学び、強さを学ぶ。そうして日々は過ぎていた。

「なぁ名前」
「ん?」
「昼に名前にボロクソにやられた海賊が言ってた、誇りって、なんだ」
「誇り、なぁ」

ふむ、と言葉を止めた名前は、こうやって子供の戯言にもいつも真剣に応える。だからバキーは名前のことを世間が言うよりよほど「マシな大人」だと思っていた。

「持てば持つだけ命を削るものだな」
「そっか」
「持つことが悪いとは言わないが、そんなもんが持てん戦いもある。誇りなくしては戦えぬとはいうが、なくても人は戦える 」
「持たない方がいいってことか?」
「俺は道化であれと言っただろう、真に強い人間であれと。それと同じだな」
「…難しい」
「いつか分かるさ」

くしゃりとバキーの頭をなでた名前は、少しだけ目を細めてそういった。それから脇にあったランプを消し、おやすみとだけ言って出ていった。



140706
思い出。



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