「誕生日おめでとう。」
「おめでとうございます。」
同じ顔にそう言われて何だか不思議な気分になった。そもそも何でこうなったんだろう?
倒れた私を介抱してくれたあの日、佐伯先輩がカフェをやっていると知った。帰ってから調べたらそこそこ人気のお店だと判明。私の誕生日に仕事がやすみになったので、こっそり行ってみる事にした。(この前のお礼のつもりで花束を作った。)カフェの地図片手にあの道を歩いてちょっとした高台につくとそれはあった。あの日の帰りは暗かったのと若干パニックになってたので建物をよく見ていなかったのだ。店の入り口であろうドアの横には『SAE Cafe』と書かれた小さな看板。
『あ!』
ドアノブに手をかけた所で後ろから声がした。思わず持っていた鞄を落として、鞄の中が散乱する。
『あぁ!』
『ごめんなさい、だいじょうぶですか?』
しゃがみこんで急いで拾っていると、横から小さい手が伸びてきた。手から視線を上にあげると、ランドセルを背負った小さい佐伯先輩が。
『あ、やっぱりあのときのおねえさん。』
『え、えっと、さくらちゃん?』
『はい!』
ニコニコと微笑みながら私の定期入れを手にする佐伯先輩の娘さんのさくらちゃんだ。さくらちゃんは私の定期を見て目を丸くすると、そのまま私の手の上に定期入れを置いた。
『おねえさん、きょうたんじょうびなんですか!?』
定期入れに入っていた免許証を見たのかさくらちゃんがそう言った。
『え、あ、うん・・・・。』
『じゃあおいわいしなくちゃ!』
『えぇ!?』
さくらちゃんはそう言うと私の手を取った。そしてそのまま私を引っぱったままドアを開け、お店の中に招き入れる。
『パパ。』
『おかえり、さくら。それから・・・・・君はあの時の。』
店に入るとお客さんは私一人だけだった。たくさんのお客さんの中の一人になろうと思っていたのに。エプロンを付けた佐伯先輩がカウンターの向こうからさくらちゃんのように目を丸くさせてそう言った。
さくらちゃんは私を佐伯先輩のいるカウンターの席に座るように促すと、ランドセルを取って自分もその隣の席に座った。そして一言。
『おねえさん、今日たんじょうびなんだって。』
そして、今に至る。
パチパチと拍手を受ける私はそりゃもうポカンとしている事だろう。
「おねえさんいくつになったんですか?」
「こらこらさくら、女性に年齢を聞くのは野暮な事だよ。」
「そうなの?」
「そうなの。ね?」
佐伯先輩にいい笑顔で「ね?」と言われ私はただ苦笑いを浮かべた。とりあえずこの前のお礼と持ってきたお花を早いところ渡して帰ろう。うん、それがいい。私は持っていた袋から花束を取り出した。
「あの、これこの前のお礼です。花屋に勤めてるので・・・・。」
「へー、そうなのか。今度場所教えてよ。テーブルに飾る花見つけに行くから。」
「・・・・。」
「さくら、向こうの棚の下から花瓶持ってきてくれるかい?ピンクのやつ。」
「はーい。」
さくらちゃんはそう言うとたたたと奥に走っていってしまった。佐伯先輩は私が作った花束を受け取ると、カウンターからちょっと身を乗り出してきた。思わず後ろにのけぞる。
「君、コーヒーは好き?」
「は、はい。」
「よかった。お礼にコーヒー淹れるからよかったら飲んでいって。」
「いや、もうすぐに帰りますので!」
「あ、彼氏とデート?」
「ち、違いますけど・・・・。」
「えぇ、おねえさんかえっちゃうんですか!?」
見ればピンクの花瓶を持ったさくらちゃんが眉をハの字にして立っていた。佐伯先輩がそれを受け取るとさくらちゃんはまた私の隣の席に座って、カウンターをトントンと叩いた。
「パパ、ケーキ。」
「いや、あの・・・・。」
「俺の娘は誰に似たんだか、時々言い出したら聞かなくなるんだ。だから、ゆっくりして行ってね。」
佐伯先輩はそう言いながら私の前にカップを差し出した。そこにはミルクの渦を巻くコーヒーが。その横からさくらちゃんが白いお皿にのったロールケーキを置いた。シンプルなロールケーキの上から佐伯先輩が赤のしましまのろうそくを指すと、先端に火をつける。
「これは俺達からのバースデープレゼントだ。」
「パパのケーキはすごくおいしいですよ。」
「さぁ、吹き消して。」
私は同じ笑顔に見守られながら意を決してろうそくの火を吹き消した。再び起こる拍手。
お言葉に甘えてロールケーキとコーヒーを堪能しよう。花にも負けない笑顔の2人を見ながら私はフォークを手にした。
「もう森には行かない」のこしあんさまより。
当サイトの2周年のお祝いに書いて下さいました。
とてもとてもうれしかったです。こしあんさん、本当にありがとうございました!!!