たからもの | ナノ


名前変換


海で、二人






考え事をするときに海へ来ることは、当たり前のことになっていた
考え事といっても、ほとんどは好きな人のことである
私の好きな人、それは同じクラスでテニス部に所属している佐伯くんだ
誰にでも優しく、笑顔で接してくれて、顔も整っている彼はクラスの、学校の人気者
そんな彼を好きになったのは、今からちょうど一年前くらいの海が綺麗な夜だった

佐伯くん出会った日、親と喧嘩した私は家にいたくなくて海へ向かった
冷たい風と静かに満ち干きする波の音に、頭の中が整理されて、心が穏やかになったとき、彼はやってきた
膝を抱え込んだまま、ふと顔を上げると、目の前にすっと差し出された缶のミルクティー
あまり街灯のない、暗い海辺で相手の顔を見るために必死に目を凝らす。ぼやっと見えたのは、私と同い年くらいの男の子だった


「嘘っぽく聞こえるかもしれないけど、怪しい者じゃないよ」

「はあ…」

「俺も悩み事とかあったら海へ来るんだ。君も?」

「はい」

「そっか。ただ、女の子一人は危ないから声をかけた。怖がらせたなら謝るよ」

「いや、大丈夫です。お気遣いありがとう」


私がそう言うと、ならよかったと彼は笑った
そのあとはお互いに自己紹介をして、ちょっと話して帰った
家に帰ってから散々怒られたけれど、海で出会った彼、佐伯くんに話を聞いてもらったからか、家を出る前よりは穏やかな気持ちでいれた

クラス替えで同じ名前を聞いたときは、さすがに開いた口が塞がらなかったけれど


同じクラスになってから、彼のことを意識するようになった
それは次第に恋心へと形を変える
でも人気者で、女の子からもモテモテな佐伯くんに自分から話し掛けるなんてできるはずもなく、明日こそはと思いながらも時間は過ぎていく
あの日の夜は真っ暗だったから、きっと彼は私の顔をぼんやりとしか見ていないだろうし、名前も覚えていないかもしれない
ネガティブに考えだしたらどんどん落ち込んでしまい、今日海へ来た

でもやっぱり、佐伯くんが好きなことに変わりはない


「どうしたらいいんだろう…」


そうつぶやいたとき、肩にふわりと何かがかけられた
そして目の前に差し出された缶のミルクティー
肩にかけられたのは、マフラーのようなもの
上を向けば、夕日に照らされた佐伯くんが優しい笑顔で微笑んでいた


「また、悩み事?」

「佐伯くん…」

「俺には言えない話かな?」

「ちょっと、言いにくいかも…へへ」

「ははっ。じゃあ、俺の悩み事聞いてもらってもいい?」

「うん」


返事をしたときは、佐伯くんの悩み事を聞けることが嬉しくて、あわよくば何かアドバイスを、と思っていたのだが見事に撃沈した
佐伯くんの悩み事は、学校で好きな子に話し掛けれないという恋愛のことだったからだ
佐伯くんだって普通の男の子。恋だってするだろう
でも、私に彼を応援することはできそうにない。そんなに私の心は強くない
泣きそうになるのを抑えながら、私はただ相槌を打っていた


「その女の子とはね、前に一度話したことがあるんだけど、学校じゃどうしても話しにくくてさ」

「うん…」

「前に話した場所が海だったからかもしれないなあ。その子と出会ったのはちょうど去年の今頃で、その子は一人で海にいた」

「…」

「女の子一人じゃ危ないから声かけたんだけど、すごく落ち込んでたみたいでね。でもちょっと話したらすっきりしたのかわからないけど笑ってくれたんだ」

「……」

「俺、目がいいから夜でも彼女の顔がよく見えたんだけど、そのときに見た笑顔が忘れられなくてね。今年同じクラスだってわかったときは驚いたよ。…名字名前さん」

「…っ、なんで…」

「今日元気なさそうに見えたからね」


佐伯くんが私を覚えてくれていたことが嬉しくて、鼻の奥がツンとする
頭の中を整理して伝えることを考える。でも、どれだけ考えても1番自分の気持ちが伝わる言葉は一つしかなかった
涙で佐伯くんの顔がぼやけて見えるけど、まだ泣いたらダメだ。佐伯くんはちゃんと伝えてくれたんだから、私もちゃんと伝えなきゃいけない
零れそうになる涙を堪えながら、佐伯くんに私の気持ちが伝わるように願いながら言葉を紡ぐ


「私は、佐伯くんが好きです…っ」

「小森さん…」

「同じクラスになれて、嬉しかった。でも、話し掛けられなくて…っ、一人でへこんでここに来たの…」

「あはは、俺たち同じ悩み事してたんだな。でも、もう悩まなくても良さそうだね。…俺も桜が好きだよ」

「…っ、うーっ…」


もう涙を抑えられなくて、膝に顔を埋める
そんな私を見た佐伯くんは、笑いながら私をぎゅうっと抱きしめて頭を撫でてくれた


二人でくっついて見る海の方が綺麗だね、なんてちょっとくさい台詞をさらっと言えちゃう佐伯くんは、やっぱりかっこいい
今度は夏の海に来ようと約束をして、彼からもらったミルクティーを一口飲む
同じミルクティーなのに、今飲んでいるミルクティーの方が甘く感じるのは、佐伯くんが側にいるからかな






「星屑」のなつみさんから頂きました。
なつみさん本当にありがとうございました!!!



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