おめでとうありがとう





「お誕生日、おめでとう!」

みんなで声を合わせてクラッカーを鳴らして樹っちゃんを迎えれば、樹っちゃんは黒目がちな目を真ん丸に見開いて息を止めて、それから「…ありがとうなのね」ってとろけそうにやわらかく笑ってくれた。その笑顔に釣られて、私たちの顔もへにゃりと崩れる。

「樹っちゃん樹っちゃん、見て! ケーキつくったんだよ、みんなで!」

剣太郎が指さした先には、みんなで大騒ぎしながら作った不格好なケーキと、ちょっと焦げ付いたハヤシライス。樹っちゃんはプロ顔負けのすごくきれいなデコレーションケーキを作れるくせに、みんなの作った崩れかけのケーキを「すごいのね」と目を丸くして喜んでくれた。いちいち可愛らしいその反応に、私たちの顔もみっともなくにやけっぱなしだ。

「さ、樹っちゃん。ろうそく消して」

最も情けなくにやけまくっているサエが、樹っちゃんの肩を押してケーキの前に誘導した。ちょっとサエ、その顔、ファンの子が見たら幻滅するかもよ。

「じゃあみんな、せーのっ、はっぴば〜すで〜とぅ〜ゆ〜…」

部室の灯りを落として、みんなでハッピーバースデーを歌う。六角男子テニス部はこういうことには全力だ。樹っちゃんはちょっと恥ずかしそうにしながら、でも嬉しそうにみんなの歌を聞いていてくれた。

「はっぴばーすで〜でぃあいっちゃあ〜ん…はっぴば〜すで〜とゅ〜ゆ〜♪」

みんなが歌い終わるのと同時に、樹っちゃんがふーっと感極まった鼻息を吐き出して、15本のろうそくの火を一気に吹き消した。歌い終わったみんなは一瞬呆然として、それから大爆笑。さすがは樹っちゃん。

私はマネージャー権限で樹っちゃんの腕に思い切り抱きついた。

「樹っちゃん、お誕生日おめでとう! いつもほんとにありがとう! 大好き!」

……言っちゃった。言っちゃったよ、ついに。
お誕生日のお祝いのどさくさに紛れてだけど、ずっと隠してた本音。サエと亮には「ばればれだよ」って笑われたけど、バネなんかは絶対気付いていないはずの私の本心。
樹っちゃんが「え、桜?」とぴくりと腕を強張らせたから、私もどきっとした。

びっくりさせた?
私、ふられちゃう?
今まで通り、妹みたいな桜でいてほしいとか言われちゃうのかな。

そんなふうにどきどきしている私の乙女心を蹴散らすように、

「あー桜ちゃんずるい! 僕も僕もーっ!」
「俺も、樹っちゃんが、好きだ!」

剣太郎とダビデの後輩コンビが、私ごと樹っちゃんに抱きついてきた。ぐえ。く、苦し…。
ていうか邪魔! 今大切なところなのに!

「おーっ、なんだ樹っちゃんモテモテだなー。俺も好きだぜ―っ!」

バネ、空気を読め!

「もちろん俺もだ!」

だーかーらあっ、聡あっついよ苦しいよこの馬鹿力あっ!

まったくこの馬鹿どもは…。
力任せにぎゅうぎゅう抱きついてこられて、私の甘酸っぱいときめきはあっさり消え去ってしまった。樹っちゃんも「こらこら」と困ったように笑ってるし。
外野を見ると、苦笑してこっちを見ているサエと目が合った。笑ってないで助けろこら!と念を送ると、サエは隣の亮と顔を見合わせて、それから珍しく子供っぽい笑い方をした。あ、こいつ…。

「樹っちゃーん! 俺も大好きだよ! 愛してる!」
「わっ、サエ!?」
「もちろん俺も愛してるよ樹っちゃん。クスクス」
「亮まで…ちょっとみんな、離れるのね!」

やっぱりか。サエと亮まで樹っちゃん(と、ついでに私)に抱きついてきやがった。
さすがに樹っちゃんは慌ててる。そうだよね、これかなり苦しいし、暑いし…暑くて…ちょっと息ができないくらいに……あれ?

「桜! ちょ、みんないい加減にしなさい! 気持ちはありがたいからとっとと離れなさい!」

樹っちゃんが本気の厳しい声を出して、みんなはおとなしく離れていった。さすが樹っちゃん。六角テニス部最強のおかん。…じゃなくて。

私は夢中ではあはあと息を整える。ああ、やばかった。一瞬意識が遠のいた。鍛えている樹っちゃんと違って私なんか普通の女子中学生なんだから。腕力馬鹿のこいつら全員に全力で抱きしめられた日には窒息するって。

「桜! 桜、大丈夫?」

樹っちゃんが心配そうに覗き込んでくれる。ああ樹っちゃんは優しいなあ。
私がこくこくと頷くと、樹っちゃんは安心したように「よかった」と笑った。その笑顔に心臓がズキューンと打ち抜かれる。ああ、樹っちゃん、なんて可愛いの…!

「樹っちゃん、大好き…!」

思わずもう一度口に出したら、樹っちゃんは今度は驚いた顔をしなかった。とろけるみたいに優しく笑って、「俺も大好きですよ」って私を抱きしめてくれた。ふんわり、女の子扱いして。

………………え? ちょっと待って。え?

えええええええ今樹っちゃん「俺も」って言った? 「俺も大好きですよ」って? 部員のみんなに向ける「大好き」とはまるで違う言い方で、妹扱いじゃなくちゃんと女の子に言う言い方で「大好き」って。え?

………………。

「桜? ほんとに大丈夫?」

呆然とする私を心配して、また樹っちゃんが顔を覗き込んでくる。近い。なんでかって、抱きしめられてるからだ。それってつまり…。

「うきゃあああああああああああああああっ両思いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

ぱんぱんに膨らんでた気持ちがついに爆発した。
叫んで抱きついた私を、樹っちゃんは茹でダコみたいに真っ赤になりながら受け止めてくれて、周りでみんなの「おおーっ」「おめでとう!」という歓声と拍手が弾けた。

樹っちゃん樹っちゃん。
お誕生日おめでとう。
それからありがとう。ずっとずっと大好きだよ!


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