わたしは、ショウウインドウの前で立ち止まった。
内部のスポットライトと、外からの傾きかけた陽光の両方を反射した透明なガラスが、きらきらきらきら、複雑に光っている。そこだけ別世界みたいにあかるく見えた。
こういうの、知ってる。
わたしの幼馴染み。彼もいつも、やたらときらっきら光っているひとだ。その光り方は、ちょっと普通じゃないくらい。大勢の中にいたっていつでもすぐに見つけられる。
「──うん。決めた」
本当は、今日は彼の為の物を買いに来たんじゃないんだけど。ショウウインドウの中でことさらに光を放つ『それ』を見た瞬間、わたしは決めていた。
サエにプレゼントしよう。
これはもう、世界中でただ一人、彼の為だけに作られたような一品だ。そう思ったから。
ズシャアアアアアアアア、ベコッ。
「ああーっ!」
コートに響き渡る、テニスらしからぬ効果音と剣太郎の悲鳴、そして笑い声。
「どうした剣太郎、もう終わりかー?」
楽しげにラケットをくるくる回して相手コートの剣太郎を挑発するのはバネだ。おとなげない。
「けんたろーっ、得意のモテモテスマッシュはどうしたんだ? そんなんじゃモテないぞー」
やはり楽しげにベンチからヤジを飛ばすのはサエ。こっちも負けずにおとなげない。
剣太郎はびっくり箱から飛び出るピエロみたいにびょーんと飛び跳ねて起き上がった。
「まだまだー! こんなんじゃないよ!」
「おっ、まだやるか?」
「当たり前でしょ! 現役引退したバネさんに負けるようじゃ、僕はもう一生女の子とチューできない…でき…ない…」
「おいおい自分で言ってて落ち込むなよ」
「落ち込んでない! かかってこーい!」
「いや、サーブ、そっちからだからな?」
「それはやく言って!」
一年生部長と先輩の相変わらずのやりとりに、コート周りのあちこちから苦笑が聞こえてくる。放課後の部活中だから剣太郎は練習用ユニフォームだけど、もうとっくに引退してるバネは制服のワイシャツ姿。でも違和感ない。わたしたち三年生、夏に引退してからも週に一度はこうして部活に顔出してるから(バネいわく、「揉んでやってんだよ」。サエいわく、「遊んでもらってるんだよね」)。
六角中テニス部、もともとあり得ないくらい自由だから。引退した三年生やら高校生や大学生のOBやら、わたしみたいな元マネの子とか、はたまた地元六角商店街のおじさんたちや、近所の小学生の子たちやら。割といつでもナチュラルに混ざってて、季節問わず最後はみんなでバーベキューになだれ込むことになってる。
でも今日は久しぶりだった。さすがのマイペースなわたしたちでも、三年生の三学期に週一で遊びに来れるほどにはノーテンキじゃない。今は受験勉強が第一。今日は本当に久しぶりの息抜きで、ちょっと顔を出してみただけだった。でも、ラケット持ったら本気になっちゃうのがバネだ。剣太郎も「バネさんサエさん試合試合試合!」ってじゃれついて来るし。…なんだか懐かしいな、このかんじ。楽しい。わたしがそう思ったのと同時に、
「懐かしいね、このかんじ」
サエが楽しそうに笑いながら言った。言ってから、
「…って、思っただろ、桜」
ってわたしの方を見てまた笑う。きらきらって白い歯が光った。
「思った。けど、一番楽しんでるのサエだよね」
「うん」
わたしの言葉にサエは素直にこくりと頷いた。うん、なんて小学生みたいでなんか可愛い。サエってたまにこういうとこある。ソツなくかっこいいひとなのに、こういう『抜け』感っていうか隙ありありなかんじがあるのがまた、モテる一因なんだよね。女の子からしたら厄介だと思う。
「楽しいよ。久しぶりだし。やっぱりテニスしないと体が変になる気がするし」
まじめに言うからわたしも笑ってしまった。
「変になるの?」
「なるよそれは。毎日毎日、ラケット握ってボール追い掛けてたんだから」
「うちの場合、ボール追い掛けるより潮干狩りしてた方が多い気もするけど」
サエはあははと笑って、
「それもトレーニングの一環!」
と言い切った。
…だから負けちゃったんじゃないのかなあ、なんて悩んだ日もあった。すごく暑かった、あの夏の日。冷たい風が吹いている今思い出しても、目蓋がひりひり灼かれるような気がする。だけど、今はもう何の後悔もない。だって精一杯やったし。テニスも潮干狩りも海遊びも全部全力で、それが六角だから。
そう思えるようになったのは多分、サエがいてくれたから、なんだけど。
「楽しいよなあ」
にこにこ笑ってバネと剣太郎の打ち合いを見守るサエの横顔、こっそり斜め下から見た。わたしたちの身長的にどうしてもこの角度になるけれど、この角度から見るサエの顔は、茶色い髪の毛を通した光がきらきらして、すごく光って見える。うん、やっぱり、光ってる。今日も安定のきらきらだ。
うーむ、とわたしはひとり考える。人間が、発光して見えるという現象。どういった場合、その現象は起こり得るか?名前をつけるとしたら何か、述べよ。10文字以内で。……なんて文章が頭に浮かぶ。昨日の夜は文章問題を中心にやったから、まだその残滓が頭にこびり付いているかんじ。いや、こびり付いててくれなきゃ困るんだけどね、受験生だもの。
「桜? どうかした?」
サエの目がふいにこっちを向いた。御多分にもれずその目もきらっきらである。まぶしっ。
「もしかして寝不足とか? 受験勉強、無理し過ぎてるんじゃないの、桜」
「え。や、それは、ちょっとは無理しないと。高校、落ちたら困るし」
「桜が落ちたら俺も困るけど。でもそんなに無理じゃないだろ? 確かB判定だったよね」
「でもやっぱり、落ちる可能性はあるって事だから。頑張らないと。それにサエはA判定だったじゃん」
「そりゃ俺はそうだけど」
そりゃ俺はって。『俺は受かるけどさ』とでも言いたげな口調でサエは眉毛をちょっと下げた。
「受験来週なのに、体調崩したら駄目だよ。まさか熱とかないよね?」
「え」
ぐ、って。頭の後ろ、支えられて。いきなりサエの顔が迫ってきたと思ったら、おでこ、こっつんされた。サエの長めの前髪がわたしのおでこにさらさら触れてくすぐったい。あと、きらきらが。サエのきらきらが零れてきて辺りに散らばって、周りの景色まできらきらして見える。…待って、きらきらって『感染る』ものなの?
「…よかった、熱はないね」
おでこくっつけたままでサエがほっとしたように笑う。近い。
離れて下さいとも言えないままで、わたしは「うん」と頷くしかなかった。うん、熱はないです。
「────あの、サエさん」
すごーく、遠慮がちな声がした。でもわたしには救いの神だった。
名前を呼ばれたサエは、ぱちぱちっと瞬きをした。わたしとおでこくっつけたままで。サエの睫毛が動く度にきらきらしたものが飛ぶ。なんなんだもう。この輝き、もう、うるさい。
いい加減うんざりしてきたわたしの目を覗き込んで、サエが可笑しそうにちいさく笑った。そして何事もなかったように自然な動作で顔を離して振り返った。
「なに? ダビデ」
おっきな体を遠慮がちにもぞもぞさせて立っていたのは可愛い後輩だった。手にラケットを二本持っている。
「ええと……、試合しよう。俺と」
こてりと首を傾げる仕草は大型犬を連想させる。サエはぷっと吹き出した。
「ええ〜、ダビデと? 疲れるのやだなあ。俺、今日は見学だけで」
「嘘。サエさん、めちゃくちゃウズウズしてるくせに。やりたくてしょーがないんだろ、今」
サエは目を丸くして、わたしと目を合わせた。わたしも同じ顔してたと思う。一瞬後、わたしたちは同時に笑いだした。サエなんて腰を折って苦しそうに笑っている。きょとーんとしてるダビデの顔がまた可笑しくて、わたしたちの笑いは止まらなくなった。
「…やー、…もう、後輩が頼もしくてうれしいね。よかったねサエ」
笑いながらわたしが言うと、サエは「ほんとだよ」と言った。笑いの合間にだけど、すごく実感こもった言葉だった。サエって本当に後輩大好きだから。
「──そうだサエ。後で、海に寄り道して行こう、今日」
サエさんはやくはやく!ってダビデに袖を引っ張られながら立ち上がるサエに、わたしは言った。なるべくさりげないかんじで。
「うん、いいよ」
間髪入れずにサエがあっさり答えた。「じゃあ後で」ってひらひら手を振って、ダビデからラケットを受け取ってコートに駆けて行く。後姿もやっぱりきらきらしていた。
「あーっ、サエさん! ずるいダビデ、僕もサエさんともやりたい!」
「こら剣太郎、お前の相手は今俺だろ!」
「分かってるよー! でもサエさんともやりたい! あっそうだダブルスしようダブルスー!」
剣太郎がぴょんぴょん跳ねながら喚いて、バネが「おっ前正直すぎ!」って笑いだして。わたしも笑った。やっぱり懐かしい。大好き、このかんじ。
海は、すごーく寒かった。知ってたけど!
でも冬の海も好きだ。夕日が沈んだ最後の名残りが、水平線をうっすらオレンジに染めていた。空はもう深い紺色で、細い月が金属めいた硬質さで浮かんでいて。星もいくつか見えはじめていた。
風は体に刺さりそうに冷たいけど、空気が澄んでいてきれい。なにより波の音がいい。
「波の音を聞くと落ち着くって、わたしたち、体に刷り込まれちゃってるよね」
砂浜より堤防寄りの、小石混じりの海辺を気をつけて歩きながらわたしが言うと、「そうだね」とサエが笑った。
「でも桜、少しだけだよ。風邪ひいたら大変だから」
「…うん」
「そんな顔しない。春になったらたくさん来よう。毎日でもいいよ」
くすくす笑うサエにつられてわたしも笑う。
「そうだね。一緒の高校行けたらいいね」
「そうじゃないと困るよ、俺は」
「困るって」
サエ、さっきもそんなこと言ってたな…なんてぼんやり考えながら、わたしは鞄をごそごそと漁った。
「あのね、渡したいものがあって」
「えっ」
「えっ? …あ、正確に言えば『渡してもらいたいもの』があって、かな」
「えっ」
「えっ?」
なんだろう、急に動きを止めて固まったサエにわたしは首を傾げる。
「ええとね、これ」
鞄の中から取り出した包みをサエに差し出すと、サエはロボットみたいにぎくしゃくした動きでそれを受け取った。
「ええと……これは?」
「うん。それを青学の不二くんに渡してもらいたいんだー」
「不二!?」
「うん。不二くん誕生日なんでしょ、今日。誕生日が四年に一度なんてすごいよね」
「……」
「サエ、不二くんと仲いいでしょ? 今度会うときでいいから渡しておいてくれる?」
「……」
「サエ?」
呆然としているサエの目の前で、手をひらひらさせてみる。サエははっとしたように瞬きをした。
「……ええと、桜。なんで桜が不二に?」
「友達だから」
「友達」
「うん。仲良しなの、わたしたち。よくサエの話で盛り上がるんだー」
「俺の話」
サエは複雑な表情で繰り返して、はーっと深い溜め息をついた。くしゃっと前髪掻き上げたりなんかして。
「…分かったよ、今度渡しとく」
「ありがと」
「まいったなあ、いつ不二と仲良しになったの? …って、まあ機会はたくさんあったか」
苦笑するサエに、わたしは「うん」と頷いた。練習試合、合同合宿、青学とはたくさん一緒にテニスをしてきたから。
「不二くんだけじゃなくてみんなと仲いいよ。菊丸くんとか大石くんとか、あと二年生の桃くんも」
「あはは。桜らしい」
サエはわたしから受け取った包みを大事そうにしまって(ちなみに中身は六角商店街のロゴ入りタオルです。前に不二くんが「渋いね、それ。いい味出してる」って興味深々だったから)、「不二かあ」と息をつくみたいにやわらかく笑った。
「…うん、今日、電話してみるよ。四年に一度の正式な誕生日だしね」
「不二くんは青学の高等部に進むの?」
「ああ。いいよなあ、受験がないって」
「だねえ」
もちろん彼はその分中学受験を頑張ったんだから、単純に羨ましがるのも失礼なのだけど。でも、やっぱり今受験生なわたしたちから見たら、ちょっぴり…ううん、すごく羨ましいなって思えてしまう。六角みたいに高校でバラバラになることもないし。
「…うん、不二、喜ぶと思うよ。ありがとな桜」
そんなことを言って、サエは「そろそろ帰ろうか。風邪をひく」とわたしに手を差しだした。…自分じゃない人の分の「ありがとう」を言えちゃうところ、サエだなあ…。
「あ、ちょっと待って」
「え?」
「あのね、サエにも渡すものあるの。ついでに」
「ついでに」
苦笑しながら、サエはおとなしく待っていてくれる。わたしは鞄から赤い袋を出してサエに渡した。
「はいこれ」
「ありがとう。ずいぶん派手な袋だね」
「うん! 不二くんの分のタオルを商工会に貰いに行った帰りにね、『六角ビューティー肌着店』でこれ見つけて、もう、目が釘付けになっちゃって。これは絶対にサエにあげなくちゃ!って」
「……桜。突っ込みどころがあり過ぎるんだけど」
不二のタオルってまさか六角商店街のアレなのか?とか、ビューティー肌着店ってオジイのステテコを扱ってるあの?とかぶつぶつ言いながら、サエは手にした袋をおそるおそる見つめている。
「ええと……開けていいのかな?」
「もちろん!」
わたしがにっこりと頷くと、サエはひとつ呼吸をしてゆっくりと中身を取り出した。
辺りはだいぶ暗くなってきていたけれど、水平線にまだ残る夕日の残滓で、その中身は色もはっきりきれいに見えた。ありがとう、サンセット。
「…………」
「どう?」
「……どうって」
絶句するサエが手にしているのは、毛糸のパンツ。六角のおじいちゃんたち御用達の老舗肌着店のパンツは縫製も良く、肌ざわりしっとりなめらか。そしてあったかくてふわふわ! なにより、「虎次郎ちゃんへのプレゼントかい?やるねー桜ちゃん!」と肌着職人の店長さんに一発で見抜かれた、その色柄。
──オレンジと黒のしましまの、虎柄の、毛糸のパンツ。
「それ見たとき、サエの為のものだって思って。すごいかっこいいし、虎だし、あったかそうだし、触らせてもらったらめちゃくちゃ伸びが良くて上質だって分かったし。受験のときにそれ履いたら腰冷えないし、何よりパワーが湧いて合格間違いナシって気がしたの。だからどうしてもサエにあげたかったんだ」
「…………」
「誕生日でも、クリスマスでもバレンタインでもないけど、何でもない日でもあげてもいいよね。『不思議の国のアリス』であるでしょう? 何でもない日おめでとう!って」
「…………」
「……サエ?」
気がつくと、サエの肩が震えていた。え、何だろう。もしかして気に入らなかったのかな。パンツなんてふざけてるって思ったのかな。サエは絶対そんなこと思わないってわたしは勝手に信じ込んでたけど、サエだって中学生男子だもの、多感なお年頃なんだもの、駄目だったかな、パンツとか。
「…くっ」
サエの肩が揺れて、わたしは飛び上がった。そしたらサエは体を折って笑いだした。笑い…あ、よかった、笑ってる。めっちゃウケてる。涙まで流してる。……よかった。
「……まったくもう、桜は」
「……えへへ」
サエにちょっと乱暴に頭を撫でられて、わたしもへらりと笑う。受験前に笑ってくれて、ちょっと気楽になってくれたらよかったなとこっそり思った。
「ありがとう、すごく気に入ったよ」
「あ、よかった。気に入らなかったらどうしようかと」
「これ、結構高かったんじゃない? あの店で売ってるオジイのステテコだって結構高いしさ」
「あー、うん、平気。サエにあげるって知ったらおじちゃん値引きしてくれたから」
「本当に? じゃあ後でお礼に行かないとな」
「うん。合格したら一緒に行こう。……でももし合格できなくても、一緒に行こうね。どっちだって、おじちゃんは喜んでくれるから」
「…うん。そうだね」
サエはさっき自分で乱したわたしの髪を整えるように撫でて、「でも」と頬を引き締めた。わたしも「うん」と頷く。
「分かってる。全力出そうね。あの夏みたいに」
「…うん」
そんなふうに、あの夏を語れること。サエがいてくれたからなんだよ。
「ところで桜」
サエがにっこり笑った。きらきらが散った。あ、やばいなって反射的に思った。こいつ、今からとんでもないこと言い出すんじゃないかって…
「これって告白だよね。桜から俺への」
「はあ!?」
やっぱり。やっぱり言い出したよ、とんでもないこと。
「なんでそうなるの?」
「え? だってさ、下着なんてプライベートなものを贈るっていうのは…、『一生君の味噌汁を飲みたい』と同義だよね?」
「同義じゃない、同義じゃない! っていうかそれがプロポーズの言葉ならサエは樹っちゃんに30回くらいプロポーズしてることになりますが!?」
「うんまあそれはそれとして」
「否定しない!?」
「ねえ桜」
名前呼ばれて、屈まれて。顔が近付いて、サエの目に自分が映ってるのが見えた。ちらちらと楽しそうに揺らめく光。サエの目の中。
「分かってるんだろう? 俺のこと好きだよね? 不二へのプレゼントなんか渡して、俺がわたわたするの見て楽しんでただろう?」
ばれた。
一瞬だけ、誤魔化そうかなって逡巡。でもサエの目を見て観念した。今日は逃がしてくれないなって。
なのでおとなしく、頷いた。
「…うん。すき。だいすき。もっとわたしのことで困って、恰好悪くなって」
「いいよ」
サエはあっさり頷いた。
「困らせていいよ。桜の為ならいくらでも恰好悪くなってあげる。桜が好きだから。そんなことで喜んでる桜が可愛いから」
……楽しんでいたのは、お互い様かも。
長年言わなかった想いをあっさり告白しあって、わたしたちは顔を見合わせてへらりと笑った。
人間が、発光して見えるという現象。どういった場合、その現象は起こり得るか?名前をつけるとしたら何か。そんなの、『恋をしているから。』に決まってる。あ、句読点入れて9文字。
「サエがそのパンツ履いたところ見たいなあ」
照れ隠しに冗談ぽく言ったらサエが吹き出した。
「それちょっとヘンタイっぽいよ桜。まあいいけどね」
「いいのか」
まあわたしだってサエのパンツ姿なんて見慣れているが。だって六角テニス部、しょっちゅう半裸(下手したら全裸)になるんだもん。
「じゃあ桜。お返しに俺が桜に下着を贈ったら着て見せてくれるのかな」
出たー。ヘンタイ発言返し。にこにこ笑って言うことじゃない。
「なんでそうなるかな。いいよ」
「いいの? 桜、もっと自分を大切にしなきゃ駄目だよ!」
「サエが言うのそれ」
笑ってしまいながら、なんでこうムードがないんだろう、と自分でも呆れてしまう。うんとちっちゃい頃からの、きらきら光る大事な初恋がやっと叶った日なのにね。
「大切にしてるよー。だって、サエはわたしを一番大切にしてくれるでしょう、一生。だからサエにならいいよ。下着だろうが全裸だろうがどーんと来いだよ」
わたしが笑いながら告げると、サエはちょっと黙った。それからきらきらっと、泣くみたいな笑い方をした。
──うん。
小さくそう呟いた声は、波の音に消えた。
(
『文末企画』に参加させて頂きました)
文末「小さくそう呟いた声は、波の音に消えた。」をつくってくださったのは、こしあんさんです。