「ねえねえ渡狸〜」
「んー、なんだよ」
「ちょおっとさ、右手をこう、パーにして出してみてよ」

突然のお願い。だけど訝しげながらも素直に「こうか?」と言いながら右手を開いてボクに見せてくれる渡狸に、つい、自分の唇端がゆっくり、ゆうらり、和らいでいった。
その右手を覗き込むようにして見つめてみる。
男子の標準より少しだけ小さな渡狸の手は丸っこくて、男っぽい骨ばったところが見当たらない。その手のひらの真ん中には健康的な生命線が強く皮膚に刻まれている。まず真っ先に目がいったその手相を見ながら――ボクの生命線とは真逆だなあ、と、どこか呑気に思う。そしてなんとなぁく、その小さな手をぎゅうと前触れも遠慮もなく、握り締めた。

「は!?ちょっいきなりなにすんだよ残夏!なにかのドッキリか!?新手のイジメか!?悪巧みか!?」
「ん〜?なにって、ただの握手」

狼狽する渡狸はよそに、この小さな手のひらを握り締める強さをぎゅっとさらに上乗せする。しかし手袋が邪魔でやはりというべきか手の温度はちいっとも分からない。
分かることは、皮膚に強く刻まれていた生命線と、男子の標準よりは少しだけ小さく、あまり骨張っていない柔らかなこの手の感触だけ。それにどうせ渡狸のことだから手の温度なんて高体温である子供体温なんだろうと簡単に分かってしまう。
だから、それだけでいいと思った。
ボクはね。それだけで十分なんだ。

「いきなり握手って、」
「渡狸って想像以上に手が小さいねえ、これじゃあカルタちゃんを守るには頼りないんじゃな〜い?」
「うっうううううううるせえ!!俺の成長期はこれからなんだ!!」
「へえ〜がんばってねー」

ああいつもこれだ。本当に伝えたいはずの言葉だけが、一番伝えたくない言葉になってしまう、繰り返し。
いつものボクらしくひょろりと吐いてしまえばいいはずなのに、駄目なんだ。想いが一線を越えてしまった以上、もう、駄目なんだよ。
報われなくても、このまま気付かれなくても、それでも、
――――カルタちゃんを守る渡狸を、ボクが守ってみせるから。
シークレットサービスではないボクが、夏目残夏が、守りたいんだ。
この意味は鈍い君に、届かない。むしろ一生ずっと届かないままでいてほしい、と。ボクは優しさの裏側で、きっと一番の楽を選んでいる。
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