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少女Aの数奇なお散歩生活 


 ――――結果としては。

 ドロワさんにはひどく痛ましいものを見る目で見られ、ゴーシュには「お前も大概すげえノリしてるよな……」と誉めてるのか貶してるのかよく解らない言葉を貰い、ハルトからはオービタルみたい、という評価を頂いた。

 カイトさんには、容赦なくぶん殴られた。



「ぐえっ」



 蛙が潰れたときみたいな声を出して、私はベッドから転がり落ちた。

 カイトサマー!? と騒ぐオービタルの声が遠い。脳が揺れているようだ。カイトさん、私も一応女なんですけど!? しかも顔って、顔ってあんた!



「……何故……!」



 まだ身体の変化に慣れてなくて、ふらふらしながら上半身を起こす。拳を固く握り、俯いたカイトさんが視界に入る。

 顔を上げた彼が怒りと哀れみを滲ませて、言葉を放つ。



「何故、そんなことをした!? 説明しろ、少女A!」



 ああ久々にカイトさんに名前を呼ばれた。やっぱり良い声してるなあ。
 脳が示したとぼけた感想を奥深くにしまいつつ、私はへらりと笑うしかない。



「……何ででしょう」



 私はカイトさんと同じ力を手に入れた。
 その代償として、右目と右腕を失った。足まで無くならなかったのは不幸中の幸いだ。

 フォトンモードに、私の身体は極端なまでに拒否反応を示した。元がこの世界の物質じゃないからなのかどうかは解らないけど、Dr.フェイカー曰くカイトさんのときはここまでではなかったらしい。

 左目だけになった視界は今までより狭く感じたが、実用性に欠けるほどじゃない。外見がだいぶグロいけど、眼帯でもすれば隠せるだろう。

 問題は、片腕になってしまったことだ。片腕だけではデュエルをするのに手間がかかる。解決策を考えなければ、せっかく力を手に入れたのに意味がない。



「……そんな言い分が……ッ!」



 尚も言い募ろうとしたカイトさんだったが、突然口を閉ざした。それから、絞り出すように続ける。



「──貴様のそれは、雛鳥の刷り込みと同じだ」



 静かな、重い響きの言葉に私は目を丸くする。



「貴様を助けたのが、たまたま俺だった。だから貴様は俺を慕う。それだけだ。──目を覚ませ。俺は、親鳥ではない」

「カイトさ、」

「貴様が俺に尽くすことは、的外れの愚行でしかない」



 なのに何故、と彼は囁くように付け足した。

 ……カイトさんは、私のことをそんな風に思っていたのか。

 それはなんていうか―――そう、なんていうか。

 立ち上がり、私は彼に近寄った。



「カイトさん」

「………………」

「失礼します」

「は、ぐッ!?」



 お返しとばかりに、私はカイトさんの頬に一発パーを見舞った。彼はグーだったから、ジャンケンとしては勝っても、オアイコには程遠い。現に、カイトさんは私のように倒れもせず、呆けた顔をしただけだ。

 ……後ろで、カイトサマー!? と叫ぶオービタルは無視しよう。



「バカな私ですが、鳥と一緒にされるのはさすがに屈辱です。刷り込みの気持ちと自分の心の違いぐらい、理解しているつもりです」

「ならば何故だッ!? 何故おまえはこの道を選んだ!? 刷り込み以外に何があるというのだ!」

「お手伝いをしたくなりました」

「手伝い、だと?」



 カイトさんの端正な眉が寄る。



「はい。味方のいないヒトのお手伝いを。それがこの選択だっただけの話です」

「……余計な世話だ。誰も貴様の助けなど求めていない。これからもだ」

「だから、これは私のエゴです。私が勝手に、誰かの手伝いをしたくなった。それだけの話なんです」



 だから話はこれで終わり、と私は手を叩こうとして、片手しかないことに気付く。ちょっと困ってから、残った手をひらひらと振った。

 ベッドに腰掛けたとき、カイトさんがまた私の前に立った。

 もしやまだ殴り足りないのか、と私は身を固くする。だが、いつまで待っても覚悟した衝撃はやって来ない。

 恐る恐る目を開けたら、無くなった右腕を労るように見ていたカイトさんと視線が合った。



「……腕は、どうするつもりだ」

「今のところ、何か策を講じなくちゃいけません。片腕じゃデュエルできませんし。……義手とか、高いですかね?」



 なるべく安く手に入れたいものだが。

 幸い病院関係者とは奇縁がある。腕の良い技師か、安価で提供してくれる場所に心当たりがないか訊ねてみなくては。

 すると、解った、とカイトさんは呟いた。



「何がですか?」

「義手も義眼も俺が作る」

「……え!?」



 いやいや待って。しかもなんか増えてませんか。
 貴方の負担を減らしたいが為にしたのに、それじゃ意味がなくなってしまう。

 反論しようとしたら、



「拒むことは許さん」



 ……ギロリと睨まれた。

 胸中に溜まった靄を吐き出すように大きな溜め息をつき、カイトさんはまた口を開く。



「いつ頃から動ける?」

「あ、えーと……確か一週間後だったかと。体調によって前後するかもですが」

「解った。それまでに用意しよう」



 踵を返そうとしたカイトさんが、何か思い出したように動きを止めた。それからやや躊躇して、ちらりと私を見る。

 どうかしたか、と問いかける前に、くしゃりと頭を撫でられた。思わず言葉が引っ込んでしまう。



「次からは、無茶をする前に俺に相談しろ。義手か義眼のどちらかに通信機能をつけてやる」

「……できれば、義手でお願いします」



 眼に向けて会話するなんて、シュール過ぎる。俺の義眼は特別製でね、ってか。やかましいわ。

 カイトさんは首肯すると、オービタルを引き連れて部屋を出ていった。












「……おい、一週間経ったのに、何でまだ要安静なんだ。もうとっくに義手も義眼も出来ているぞ」

「それがですね。どうやら誰かさんが思いっきりぶん殴ってくださったことにより、治療期間が増えまして。はっはっは」

「ぐ……(……こいつ、段々キャラが変わってきてないか?)」





少女Aの信頼度を下げて好感度を上げる六日目。