×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

少女Aの数奇なお散歩生活 


「ドロワだ。よろしく頼む」

「あ、よろしくお願いします。少女Aです」



 何がどうしてこうなった!












 あの数奇な初対面から、一晩明けた。

 まず何から始めるべきかを考えていた私に、カイトが告げたのだ。



「とにかく、日常用品がなければどうしようもないだろう。これを貸してやるから、今日は買い物に行ってこい」



 彼から躊躇いなく渡されたのは、黒光りするカード。デュエルモンスターズじゃなくて、所謂キャッシュカードというやつで。

 当然突き返そうとした私に、カイトが一言。



「なら、金はあるのか?」

「…………ありがたくお借りします…………」



 私、もうカイトに頭が上げられない。……なんか呼び捨てとか烏滸がましいな。うん、カイト“さん”にしよう。

 カイトさん曰く、金は好きなように使えとのことだった。彼は独自開発による特許をいくつか取得している上に、忌憚なく言ってお金持ちの家の生まれなので、お金に困るということがないらしい。
 実に庶民の敵だが、そんなカイトさんに助けられているのだから、いまの私は正しく寄生虫だ。

 ……お金は、ゆっくりでも返していこうと思う。この世界はデュエルの大会とかある筈だから、それの賞金とかをアテにするつもりだ。戸籍もないだろうし、そうなるとまともな職にはつけないだろうから、それぐらいしか手がない。

 で、まあ、そこで収まらなかったのが、カイトさんだ。
 記憶喪失を一人で歩かすわけにはいかない、と付き添いを手配してくれた。それも同性という気配り具合。

 ……ご自分に対する好意にもう少しだけさとければ、文句のつけようがなかったのだが。












 そういうわけで、私はドロワさんとハートランドシティを歩いていた。

 ハートランドシティは、実に興味深い街だった。お掃除ロボット(確かオボットというやつだ)がいくつも街中を闊歩しているし、それが子供たちとデュエルをしていたりする。まるでSF映画にでも迷い込んだような気分だ。

 女同士ということもあり、下着や服を買うときに気兼ねしないのは楽だ。無論、買う物は全て極力安いものを選んでいる。



「……きみは、黒が好きなのか?」



 私の選んだ服を見て、ドロワさんが言った。

 此方から話を振らない限りだんまりだった彼女からの話題に、私は素早く飛び付いた。



「黒、というか……地味が好きなんですよ」

「地味が?」

「目立つのが苦手で」



 苦笑すると、そういうものか、とドロワさんは引き下がってくれた。

 憚りなく言って、ドロワさんは美女である。とても一九才とは思えない色気と雰囲気をお持ちで、紫のパンツスーツを素敵に着こなしている。極めつけに、デュエルの腕も高いと聞くし、もう完全体だとしか思えない。

 ……神様。もうちょっと人間を平等に作ってくれませんか。生まれた世界が文字通り違うのだから、仕方ないのかもしれないけど。

 服屋を出て、表通りを歩く。
 和やかな昼下がりの空気を味わいながら、私は残りの要る物を考えていた。

 一通りの必需品は購入したつもりだし、大丈夫だろう。
 うん、その筈。たぶん、きっと、恐らく大丈夫。



「ドロワさん、買い物終わりまし──」



 ……いない、だと……?

 慌てて周囲を見渡せば、さっき通り過ぎた店の前にドロワさんは居た。……ガラの悪そうな男と。

 美人のドロワさんだからナンパでもされているのかと思いきや、どうやら彼女の方から声をかけたらしい。近付くにつれ、咎めるようなドロワさんの声が鮮明になっていく。



「──何度も言わせないでほしい。盗んだ店の商品は返すべきだ」

「んだとォ、この女……!」



 思わず立ち尽くす私。
 大体の事態は察したけど、私が関わっていいのかどうか解らない。

 判断を躊躇っていると、ドロワさんの方が私に気付いてしまった。



「少女A」

「! ……はい、どうかしましたか。ドロワさん」



 諦めて、すごすごと近付く私。ドロワさんは男を掌で示しながら言う。



「君からも言ってやってくれ。万引きはよくないと」

「……そうデスネ。良くないデスネ」

「──さっきから黙って聞いてりゃ、何なんだよお前らは! あぁ!?」



 ついに男がキレた。

 暴力に出られてはたまらない。戦闘体勢に入ろうとしたドロワさんとは違い、知らず私が後ずさると、彼の腰にデッキケースがあるのが見えた。咄嗟に口を開く。



「じゃ、じゃあデュエルしましょう! 勝った方が正しいということで!」

「はァ……?」



 腕を振り上げかけていた男が一時的に止まる。

 言ってしまった以上、後戻りはできない。最後まで口にするしかない。



「その、こっちが勝ったら、ドロワさんに従ってください」

「……そこまで言うなら、覚悟はできてんだろうな?」



 ニヤリ、と男が笑う。

 あれ、嫌な予感。
 思わず愛想笑いの顔に冷や汗が伝う。



「俺が勝ったら、何でも言うこと聞いてもらうぜ。お前ら二人共な」



 げ、ゲスだ──ッ!

 こ、こんなモブとしか思えない野郎ですらゲスだなんてどういうことなんだ! こんな風紀で大丈夫なのか、ハートランドシティ!?



「──いいだろう」



 とか私が一人で戦慄してたら、ドロワさんが勝手に承諾しちゃったよ!?

 あ。でもドロワさんはデュエル強いから大丈夫────って。



「何でドロワさん観戦の体勢に入ってんですか!?」

「何でって……君が挑んだデュエルだろう?」



 私が行う義理はあるまい、とのたまうドロワさん。

 ……あの、それでいいんですか!? 私のようなへっぽこがやるデュエルで、貴女の命運も決まるんですよ!?



「何だ、貧乳の方が相手か。まぁいい、やるぞ」



 ……………………。



「──ドロワさん」

「何だ?」

「デュエルディスクとDゲイザー、貸して頂けますか。持っていないもので」

「あぁ、解った」



 それだけで月九女優を張れそうな優雅な動作で、ドロワさんはデュエルディスクとDゲイザーを投げ渡してくれた。

 普段ならテンパって受け取れないだろうそれも、今は違う。頭が妙に冷静で、いなせなハリウッドの悪役みたいにキャッチできた。

 受け取ったそれらをセットし、デッキをセット。
 勝てるか、じゃない。勝つ。完膚なきまでに、容赦なく叩き潰してやる。



「誰が貧乳じゃボケェエエ! 胸が父親に似ただけじゃあッ!」

「(それを貧乳と呼ぶのではなかろうか……)」



 ドロワさんが何を思っているのかなど露知らず、私は高らかにデュエル開始を宣言した。



「「デュエル!」」


「先攻はお、」

「先攻は私! ドロー!」



 この世界での先攻後攻はジャンケンではなく、言ったもん勝ちだ。相手の言葉を遮って宣言した私は、デッキからカードをドローする。

 ……なんか、柄にもなくドキドキするな。



「私は≪青き眼の乙女≫を攻撃表示で召喚!」



 青き眼の乙女
 ☆1/ATK0/DEF0


 ふわり、と現れたのは幻想的な白髪の乙女。ゆっくりと開かれた瞼の奥には、海のように澄んだ青い宝石がある。



「──ほ、ホントに出たーッ! すごい、ソリッドビジョンすごい! 俺の嫁、間違えた社長の嫁可愛い!」



 きゃーきゃーはしゃいでいたが、ふと気付く私。

 いま、私に向けられているドロワさんからの視線が、とても冷たい。

 こほん。咳払い一つ。



「私はカードを一枚伏せて、これでターンエンドです」

「いや、もう誤魔化すのは無理だと思うぞ……?」



 ええい、貴様モブの言うことなど知らぬ。さっさとドローしろ。

 とは思うものの、口には出せないチキンが私である。思念を込めて精一杯睨み付ければ、ようやく男がドローした。



「だが、攻撃力0のモンスターを攻撃表示だと? 舐めてるのか? 俺のターン、ドロー!」



 舐めてなどいない。乙女はこれでよいのだ。

 ……しかしまあ、ホントにこの世界のデュエリストは、相手のカードのテキストを確認しないんだなあ。



「俺は手札から、魔法カード≪テラ・フォーミング≫を発動! デッキからフィールド魔法を手札に加える! 俺は手札に加えた≪伏魔殿─悪魔の迷宮─≫を発動!」



 ぱしっ、とカードがフィールド魔法ゾーンにセットされた。

 私の舌が音を立てた直後、ARビジョンに変化が生じた。
 周囲の都会的な景色が、禍々しいものへと塗り潰されていく。



「伏魔殿……デーモンデッキか……」

「さらに俺は≪おろかな埋葬≫を発動! デッキからモンスターを一体、墓地に送る」



 何が墓地に、などと呑気に確認している暇はない。この世界のデュエルで“待った”なんて効かないのだ。



「そして≪デーモンの騎兵≫を攻撃表示で召喚! ≪伏魔殿─悪魔の迷宮─≫の効果により、≪騎兵≫の攻撃力は500ポイントアップする!」



 デーモンの騎兵
 ☆4/ATK1900/DEF0

 ATK1900→2400


 改めて見るデーモンの騎兵は、実に不気味だった。カードの絵柄として眺めていたときと違い、やはり実体を持つと表現しがたい不気味さがある。

 怯える私を察したのか、乙女が軽く振り返った。柔和な笑みが向けられて、ようやっと私は気付く。

 私は一人で戦っているのではないのだ。彼女たちの力を引き出せば、私が負ける道理はない。

 軽く頷き返せば、乙女は強い意思を持った眼で頷き返してくれた。



「≪デーモンの騎兵≫で乙女に攻撃!」

「≪青き眼の乙女≫の効果発動! このカードが攻撃対象に選択されたとき、その攻撃を無効にし、乙女の表示形式を変更する!」



 騎兵の槍が、乙女に届く寸前で見えない何かに弾かれた。ばちり、と青い火花が散ったときには、彼女は袖を翻し、守備形式になっていた。

 私は言葉を続ける。



「さらにこのとき、自分の手札・デッキ・墓地のいずれかから≪青眼の白龍≫を一体、特殊召喚できます!」

「なにィ!?」



 デッキから一枚のカードが弾かれて、計ったように私の手元に着地する。
 それを私はモンスターゾーンに示した。



「≪青眼の白龍≫を攻撃表示で特殊召喚!」



 青眼の白龍
 ☆8/ATK3000/DEF2500


 強風を撒き散らし降臨した白き龍は、まるで乙女を守るように現れた。

 その神々しさに、私は知らず息を呑む。これは社長もふつくしいって言いたくなるよ。うん、仕方ない。



「くそっ……。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー。≪青眼の白龍≫で、騎兵に攻撃! 破滅のバーストストリーム!」



 私の号令に応えるように、青眼は騎兵を焼き払った。神々しさと末恐ろしさを併せ持った光が、騎兵を吹き飛ばす。



「くっ……!」



 LP4000→3400



「私はモンスターを一体伏せ、乙女を攻撃表示に変更します。ターンエンド」

「くそっ! 俺のターン! 手札から≪サイクロン≫を発動! おまえの伏せカードを破壊する!」



 突如吹き荒れた一陣の風が、私の伏せカードを破壊した。

 その強風に思わず目を閉じてしまった私の横を、粉々になった伏せカード──≪銀龍の轟咆≫が通り過ぎていく。

 大丈夫、何てことない。青眼にも、乙女にも影響はないんだから──



「≪魔界発現世行きデスガイド≫を召喚! ≪デスガイド≫の効果により、デッキからレベル3の悪魔族を一体特殊召喚できる。俺は、もう一体の≪デスガイド≫を特殊召喚!」

「ここでガチカードォッ!?」



 思わず声を荒げてしまった私の心中、むべなるかな。

 だってほら、そんな、急にガチカードくるとか誰が思うの……!?

 …………いや、十代さんとか結構ガチカード使ってましたね。カードガンナーとかダンディライオンとか、漫画版ならライオウとか。



「俺は二体の≪デスガイド≫で、オーバーレイネットワークを構築!」



 デスガイドのレベルは3。となると、ランク3のエクシーズモンスター……!

 ……ナンバーズはくるなナンバーズはくるなナンバーズはくるな……! アニメ効果のナンバーズは凶悪過ぎるから……!



「来い! ≪弦魔人 ムズムズリズム≫!」



 弦魔人 ムズムズリズム
 ★3/ATK1500/DEF1000



「フィールド魔法≪伏魔殿─悪魔の迷宮─≫の効果により、ムズムズリズムの攻撃力は500ポイントアップする!」



 弦魔人 ムズムズリズム
 ATK1500→2000


 ナンバーズじゃなくて安堵する。攻撃力も青眼の白龍より下だ。



「≪ムズムズリズム≫! ≪青眼の白龍≫に攻撃だァ!」

「え!?」



 どうして!? ≪ムズムズリズム≫の方が攻撃力は下なのに──!

 そのとき私の脳裏で閃いたのは、≪弦魔人 ムズムズリズム≫のテキスト。

 バカか私は! 攻撃力なんて、デュエルでは指針の一つでしかないのに──!



「≪弦魔人 ムズムズリズム≫の効果発動! 自分フィールド上の魔人と名のついたエクシーズモンスターが攻撃するときに、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除くことで、攻撃モンスターの攻撃力をエンドフェイズまで倍にする!」



 弦魔人 ムズムズリズム
 ATK2000→4000


 ムズムズリズムの攻撃力が青眼の白龍を上回った!



「≪ブルーアイズ≫!」



 私と乙女の顔色がにわかに青くなったとき、ムズムズリズムの攻撃が白龍に直撃した。

 白龍は断末魔を上げて、幾多の燐光となり、霧消した。降り注ぐ光の雨が、龍の無念を示しているように思えて、私は知らず歯噛みする。


 LP4000→3000


 私のライフが減少した。ピピピピ、と機械的な音がどこか遠くで聞こえた気がする。



「俺はこれでターンエンド」

「っ私のターン!」



 ドローカードの絵柄を見て、私の口元が緩む。

 私のデッキの核は、確かに≪青眼の白龍≫だ。だけど、他に手立てがないわけじゃない!



「私は≪レスキューラビット≫を召喚します!」



 レスキューラビット
 ☆4/ATK300/DEF100


 どこかふてぶてしい顔をした小さなウサギが、ぴょこんと現れる。
 攻撃力は乙女より少し高いぐらいだが、こいつの真価は他にある!



「≪レスキューラビット≫の効果発動! このカードをゲームから除外することで、デッキからレベル四以下の同名通常モンスターを二体特殊召喚できます!」



 私が選ぶのは──



「──私はデッキから≪アレキサンドライドラゴン≫を二体特殊召喚!」



 アレキサンドライドラゴン
 ☆4/ATK2000/DEF100



「そして≪アレキサンドライドラゴン≫二体で、オーバーレイネットワークを構築。≪輝光子パラディオス≫をエクシーズ召喚!」



 輝光子パラディオス
 ★4/ATK2000/DEF1000


 清廉なる光の騎士が、闇を打ち払うかのようにフィールドに現れる。



「≪パラディオス≫の効果発動! このカードのエクシーズ素材を二つ取り除くことで、相手フィールドのモンスター一体の攻撃力をゼロにして、効果も無効にします!」



 弦魔人 ムズムズリズム
 ATK2000→0



「なに!?」



 男の動揺を、ざまあみろと笑ってやる余裕もない。私はただただ夢中で宣告していく。



「≪パラディオス≫で、≪ムズムズリズム≫に攻撃!」

「ぐああああッ!」



 LP3400→1400


 ≪パラディオス≫が≪ムズムズリズム≫を破壊した。これで相手のフィールドはがら空き。ここで手を休めてはいけない。



「そして手札から、速攻魔法≪銀龍の轟咆≫を発動します。この効果により、自分の墓地からドラゴン族の通常モンスターを特殊召喚! 再び戦場に舞い降りろ、≪青眼の白龍≫!」



 再び姿を現した白き龍に、私は攻撃を命令する。



「≪青眼の白龍≫でダイレクトアタック!」

「やらせるか! リバースオープン! トラップ発動、≪デーモンの雄叫び≫!」



 正体を現した、伏せカード。
 私はその効果を思い出し、奥歯を噛む。



「俺はライフを500払い、自分の墓地からデーモンと名のついたモンスターを一体特殊召喚する! 蘇れ、≪戦慄の凶皇─ジェネシス・デーモン≫!」



 LP1400→900


 突如地面にヒビが走り、それは果たして巨大な溝となった。そこから這いずるようにして、恐るべき悪魔の凶皇が屹立する。


 戦慄の凶皇─ジェネシス・デーモン
 ☆8/ATK3000/DEF2000



「≪伏魔殿≫の効果により、≪ジェネシス・デーモン≫の攻撃力は500ポイントアップする!」



 ATK3000→3500



「っまずい! ≪ブルーアイズ≫止まって!」



 今まさにデーモンに戦いを挑もうとしていた白龍が、寸前で停止する。

 何故止めた。
 そう言いたげに戻ってきた白龍に、私は首を振る。

 いま焦って戦う意味はないのだ。凶皇は勝手に自壊する。



「……ちっ」



 私が冷静な判断を下したことがつまらないのだろう。男は此方に届くほど大きな舌打ちをした。



「私は、ターンエンドです」

「……≪デーモンの雄叫び≫で特殊召喚したモンスターは、特殊召喚されたターンのエンドフェイズに破壊される」



 身の毛もよだつ断末魔を上げながら、凶皇は再び溝へと沈下していった。

 男の顔に、焦りが滲み出す。



「くっ、俺のターン! 俺は≪デーモンの騎兵≫を召喚する。≪伏魔殿≫の効果により、≪デーモンの騎兵≫の攻撃力は500ポイントアップ!」



 デーモンの騎兵
 ATK1900→2400



「≪騎兵≫で≪輝光子パラディオス≫に攻撃!」



 ≪パラディオス≫が槍に貫かれ、燐光となり霧散した。同時に私のライフも音を立てて減少する。


 LP3000→2600



「くっ……≪パラディオス≫の効果発動! 相手によって破壊されたとき、カードを一枚ドローします!」

「……ターンエンドだ」

「私のターンですね」



 ドローしたカードを見て、私は一人頷いた。

 ――これで決める。



「私は手札から魔法カード≪召集の聖刻印≫を発動! デッキから聖刻と名のついたモンスターを手札に加えることができる。私は≪聖刻龍─トフェニドラゴン≫を手札に加えます」



 未だ正体を現していない伏せモンスターを引っくり返しつつ、私は続ける。



「くわえて、私は≪伝説の白石≫を反転召喚!」



 伝説の白石
 ☆1/ATK300/DEF250



「≪伝説の白石≫をリリースし、≪聖刻龍─トフェニドラゴン≫をアドバンス召集!」



 聖刻龍─トフェニドラゴン
 ☆6/ATK2100/DEF1400



「このとき、墓地に送られた≪白石≫の効果発動。デッキから≪青眼の白龍≫を一枚、手札に加える。そして私は、手札から魔法カード≪古のルール≫を発動! 手札からレベル五以上の通常モンスターを特殊召喚します。来て、≪青眼の白龍≫!」



 さすがに≪青眼の白龍≫が二体も揃うと壮観だ。

 何となく拝みたくなったが、デュエル中なので我慢する。後で存分に拝ませて頂こう。



「私は二体の≪青眼の白龍≫でオーバーレイ。≪聖刻神龍─エネアード≫をエクシーズ召喚!」



 聖刻神龍─エネアード
 ★8/ATK3000/DEF2400


 紅のドラゴンが産声を上げて、フィールドに舞い降りる。



「≪エネアード≫の効果発動! このカードのエクシーズ素材を一つ取り除き、自分の手札・フィールド上のカードを任意の数だけリリースし、その数だけフィールドのカードを破壊できる!」

「何だとォッ!?」

「私は、フィールドの≪トフェニドラゴン≫と≪乙女≫をリリース。つまり、二枚のカードを破壊できる! 私が破壊するのは当然≪伏魔殿─悪魔の迷宮─≫と≪デーモンの騎兵≫です!」



 ≪トフェニドラゴン≫と≪乙女≫が光の粒となり、≪伏魔殿≫と≪騎兵≫の周囲で渦を巻く。

 瞬きをした瞬間、禍々しい雰囲気を放っていたそれらは、光に呑まれて消滅していた。



「そして≪トフェニドラゴン≫の効果発動! このカードがリリースされたとき、自分の手札・デッキ・墓地からドラゴン族の通常モンスターを一体特殊召喚する! 私はデッキから≪アレキサンドライドラゴン≫を特殊召喚!」

「だが、俺の≪デーモンの騎兵≫の効果も発動する! カードの効果によって破壊されたとき、墓地からデーモンと名のついたモンスターを一体特殊召喚できる! 蘇れ、≪ジェネシス・デーモン≫!」



 私の場に≪アレキサンドライドラゴン≫が守備表示で、相手の場に≪ジェネシス・デーモン≫が攻撃表示で召喚された。

 だが、既に伏魔殿は倒壊した。いまの凶皇は、ただの一匹の悪魔に過ぎない。
 ただの悪魔であれば、龍たちの力で打ち払える。



「続けて私は、フィールドの≪アレキサンドライドラゴン≫を除外することで、手札から≪レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン≫を特殊召喚します!」



 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン
 ☆10/ATK2800/DEF2400


 空から降下してきた黒炎の柱を切り裂くようにして、紅の眼を持つ黒き龍は己が誕生を知らしめた。



「≪レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン≫の効果発動。手札、または墓地からドラゴン族モンスターを一体特殊召喚できる。まだ出番も攻撃もあるよ、≪青眼の白龍≫!」



 黒き龍の呼び掛けに応えるように、白き龍が鳴き声を上げながら舞い降りる。

 並び立つのは、紅、黒、白の三体の龍。

 男が後ずさったのが、遠目に確認できた。



「≪エネアード≫! ≪ジェネシス・デーモン≫を地獄に押し戻して!」



 紅の龍が先陣を切る。

 紅龍と悪魔は縺れ合いながら、共に底へと落ちていき、やがてその姿を消した。

 これで相手の場には、何もない。伏せカードも、モンスターすらも。



「──さぁ、審判を下せ! ≪レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン≫と≪青眼の白龍≫でダイレクトアタック!」

「ぐああああああッ──!」



 LP900→0


 なんて大袈裟なオーバーキルだろう。
 ピーッ、と生命が途切れた音が周囲に響き渡った。

 ARビジョンが切れ、景色は元の都会的な街並みを取り戻していく。

 同時に、龍たちも姿を消していく。彼らの圧倒的な存在感が完全に霧散したとき、私は無意識に息を深く吐き出していた。



「──勝った……」



 落ちた呟きは、まるで他人事のような響きで。

 ぽん、と肩に手を置かれた。振り返れば、優しく微笑むドロワさんが居た。



「やるじゃないか。ヒトは見かけによらないと言うが、まさかここまでとは」

「あ、はは……」

「見事なデュエルだった。おめでとう」



 そう言うと、ドロワさんの表情は引き締まった。クールな面持ちになった彼女は、へたりこんでいる男に近寄っていく。

 そして実に様になる仁王立ちを決めると、男を見下しながら告げた。



「さあ、約束だ。私に従ってもらおうか」

「……くそ、解ったよ……」



 ドロワさんに連れられ、すごすごと男は店に戻っていく。

 二人の後ろ姿が店内に消えていったとき、わっ、と私の周囲から歓声が沸いた。
 巨大な太鼓を鳴らしたかのような大音声に、思わずびくりと身を竦めてしまう。



「すごーい! お姉ちゃんが勝ったー!」「やるじゃねェか、姉ちゃん!」「よくぞ貧乳の意地を見せた!」「よっ、貧乳女王!」

「誰が貧乳じゃゴルァ! 言った奴前出ろォッ!」



 本人の激昂も何のその。いつの間にか沸いていたギャラリーは、私を貶しているのか称えているのか解らない言葉で騒ぎ続ける。

 まだ抗弁しようとして、それが急にバカらしく思えて、私は言葉を飲み込んだ。そうして浮かんだのは、勝利の実感と、それにつられた笑み。

 私が、勝ったんだ。

 そう思うと、無い胸を少しは張ってもいいかな、なんて考えてしまった。



少女Aの逆鱗に触れられる二日目。