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少女Aの数奇なお散歩生活 


 ナンバーズカードを指先でくるくると回転させる。取り立てて変わったところは見当たらないこれに、世界の命運がかかっているのだから非デュエリストは溜まったものではあるまい。


≪87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ≫


 アニメで登場しないことは知っていたが、まさか私が所有することになるとは思いもしなかった。使いづらいからだろう、カイトさんに報告しても受け取ってくれない。所有しているのが私であれ、ナンバーズを回収したという事実が重要なのだろうか。



「……どうしたものかなあ」



 ──月下美人、という花がある。サボテンの一種で、夜間に咲き一夜にして散ってしまう花だ。

 花言葉は「はかない美」「繊細」「強い意志」──「ただ一度だけ会いたくて」。

 私にはまるで無縁な言葉ばかりだな、と思う。

 カードをエクストラデッキに戻し、デッキケースに入れる。義眼と義手の調子を確認し、立ち上がる。

 いまは草木も眠る丑三つ時。
 既にハルトは就寝しているが、私は久しぶりのお仕事だ。

 部屋を出たら、廊下の壁に凭れていたカイトさんと目が合った。傍らにはいつものようにオービタル。

 彼は壁から背を離し、歩き出す。



「行くぞ」

「はい。……ところで、今日は二人もいるのですか? オービタルに聞いた限りでは、私だけでも十分だと思うのですが……」

「見せしめだ」

「見せしめ?」

「喧シイゾ、居候女! 黙ッテツイテコイ!」



 カイトさんに言われてもいつものことだなと流せるが、オービタルに言われると若干腹が立つ。

 さりげなくオービタルに足をかけてやったら、無様に転んだ。何か言われる前に、カイトさんを追いかける。

 後を追う私に目もくれず、カイトさんは進んでいく。

 やがて、ハートの塔の外に出た。オービタル、とカイトさんが一声かければ、オービタルは二つ返事でバイクモードになった。

 カイトさんはそれに跨がり、私を無言で睨みつけて急かす。
 私はといえば、……そりゃあ躊躇ぐらいする。



「……あの、私だけ徒歩とか……」

「少女A」

「ダメですよねすみません!」



 眼光をさらに鋭くしないでください怖いから!

 慌てて後ろに乗ったものの、前回とは思考の余裕とか状況とかが全然違う。そう安易にカイトさんの腰に手を回していいものかどうか、大いに葛藤してしまうのも無理はない。

 ……だってカイトさん、女の私よりも細腰なんだ! もっと肉を食え! お米食べろ!



「おまえ、振り落とされたいのか?」

「っひ」



 躊躇っていた私の手を無理矢理自分の腰に巻き付けたカイトさんは、私が手を離す前に、いきなりフルスロットルでエンジンを入れた。思わずしがみついてしまう。



「っ──!」



 寸前で悲鳴(あるいは断末魔)は飲み込んだものの、全身から血の気が引いた。

 だって! バイクが! ウィリー!!

 ギアいじっちゃってロー入っちゃってもうウィリーさ、ってかやかましいわ! 今日水曜日じゃないから!

 ……そういえばオービタルに乗るのって免許いるのかな。厳密には乗り物に分類されないから大丈夫かな。でもカイトさんなら免許ぐらい持ってそうだな。

 高速で薄れゆく意識の中、私はそんなことを思っていた。
 母上様、私はこんな状況でも能天気だったので心配無用です。












「──……い……おい」



 遠慮なく揺さぶられ、私は脳味噌が揺れる感覚と同時に目を覚ました。



「はっ! すみません!」

「……行くぞ」



 カイトさんがバイクから降りる。直後に、オービタルが元の姿を取り戻した。当然地面に尻から落下する私。

 オービタルに苦言を漏らす前に、奴はさっさと主の後を追っていった。オービタルめ、意趣返しのつもりか!

 私はいきり立って、二人の後を追った。

 そして足を踏み入れたのは、どこかで見たような気がする不気味な洋館だった。












 ああ、と私は思わず額に手を当てた。嘆きたくもなるだろう。そういえば、もうこんな時期まできていたなあ、と思い出したのだから。

 全てを見通すと評される占い師、ジン。彼はカイトさんの狂信者だ。

 とはいえ、ジンとカイトさんに直接の関係はない。私は、どこかでカイトさんのことを聞き、彼のカリスマにダイレクトアタックされたのだろうと予想している。

 ジンは既に遊馬少年に二つのナンバーズを奪い返されている。そんな彼がカイトさんに勝てるわけもなく、ジンはあっさりと敗北した。

 そしてフォトンハンドによって魂ごとナンバーズを回収されていく彼に、カイトさんはぽつりと告げる。



「──……俺のしもべは、もう足りている」



 どういう意味なのか、と問いかける前にカイトさんは踵を返した。話題をぶり返す気にもならず、私は口にするのをやめた。



「帰りますか?」

「あぁ」

「……あの、本当に何で私を連れて……いや、何でカイトさんも来たんですか?」

「……さあな」



 外に出ると、カイトさんはまたオービタルをバイクモードに変身させた。
 そしてまた行きと同じようなやり取りを経て、二人乗りで帰路を辿る。

 ……本当、何で私を連れてきたんだろう。
 ああ、後でジンの家に救急車を手配してやらないと。別にあいつ自体はどうでもいいが、万が一死なれて、カイトさんが予期せず殺人犯になったら後味が悪い。……既に似たようなもんだろう、というツッコミは却下だ。

 ──帰り道は往路よりも運転具合が優しかったことを追記しておく。



少女Aの失神する十一日目。