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少女Aの数奇なお散歩生活 


 ナンバーズの情報が入り次第、天城カイトは回収に向かう。
 今日も、その内の一つに過ぎない──筈だった。



「オービタル。ナンバーズの場所は、」

「カイトさん」



 傍らのオービタルに場所の確認をしようとしたとき、廊下の奥からすっかり耳慣れてしまった声がした。こつり、と音を立てて、薄闇の中から少女Aが現れる。

 彼女が浮かべる笑顔に、違和感はなかった。カイトが与えた義眼も義手も、まるで本物であるかのように機能している。つい一週間前まで少女Aがろくに歩けもしなかったなど、誰が信じるだろう。

 かつりかつり、とカイトに歩み寄りながら少女Aは告げる。



「私が行きます。今日はハルトくんの傍に居てあげてください」

「……つい最近まで起き上がることすら難儀していた奴が何を言う」

「もう大丈夫ですよ。この眼も腕も」少女Aは義手で義眼に触れた。「すっかり馴染みましたから」

「……………………」



 少女Aはよく笑う。
 というより、笑っていない姿の方が珍しい。カイトやハルトと居るときのみならず、誰と一緒に居ても笑っている。

 カイトの知る限り、彼女が笑っていなかったのは、彼自身が少女Aの部屋で倒れていたときだけだ。



「そろそろ動かないと、ベッドと融合しちゃいそうですし。……だから、今日は私が行きます」



 オービタル、と少女Aが呼び掛けた。場所は、と訊ねられたオービタルから答えを得ると、彼女はカイトの横を通り過ぎて、また闇の中に消えていった。

 少女A、と。
 小さく、本当に小さく呟いたカイトの呼び掛けは廊下に反響することもなく、床に落ちた。












 オービタルの話によれば、ナンバーズの所持者はこの辺りなんだけど、っと。

 ネオンの瞬きが映える夜のハートランドシティを路地裏、大通りの区別なく散策する。
 この時間帯ともなれば、健全な青少年の姿は全然見当たらない。非行に走る不良少年は度々目に入るが、どれも私の目的ではないようなのでスルー。

 対策に対策を重ねた対ナンバーズデッキをぶら下げ、私は所持者を探す。義手が反応するから、近くまで行けば何となく解る筈なのだが。

 不意に、私の前を横切る人影。
 まだうら若い、黒髪の少女だった。到底非行に走るようなタイプには見えない。せいぜいが、家出少女といった感じか。

 そこまで考えたところで、軽く感電したような錯覚を覚えた。ビリリとする感覚は、義手からきている。

 ──カイトさん手製のこの義手には、デュエルアンカーが仕込まれている。

 私はそれを迷いなく、少女に向けて放った。

 突如手首に巻き付いた光のロープによって、少女がバランスを崩した。その寸前で体勢を整え、彼女はキッと私を見据える。

 私はにっこりと笑いながら、少女に宣言する。人気のない路地裏なので、周囲を気にする必要はない。



「いつもニコニコ、貴女の後ろに這い寄る混沌、どうもこんばんは。ナンバーズハンターですっ☆」

「ふざけてんのッ!?」



 至極ごもっとも。

 しかしポーズまで決めたんだから、ちょっとぐらい反応してくれたっていいのに。……カイトさんいたらWもアリかな……。

 ふと少女の顔色が変わる。



「……ナンバーズ……ハンター? ……なるほど、このカードが狙いね?」



 そう言って、少女は一枚のカードをかざした。それと同時に、彼女が纏う雰囲気ががらりと変わる。間違いなくナンバーズだ。

 私はデュエルアンカーを機能させる。光のロープは赤い燐光と化し、霧散した。



「解ってるなら話が早い。デュエルするまで私から離れられないので、ご用意ください」



 ついでに覚悟も。
 覚悟はいいか。俺はできてる。なんちゃって。

 少女は狂喜の表情で、デュエルディスクを構えた。私は構える必要すらない。何たって、この義手にはデュエルディスクが内蔵されているのだ。流石メイドインカイトさんである。

 はなからフォトンモードのため、Dゲイザーを付ける必要もなし。



「いいわ、やってあげる。だけど後悔しないことね!」

「忠告ありがとう」

「……その余裕、気に入らないっ」



「「──デュエル!」」












「ァあああぁァアアアあぁあぁッ……!」



 路地裏に、少女の断末魔が響き渡る。それが途切れたとき、私の手にはカードが一枚収まっていた。



「まさか一ターンでレベル八を三体揃えるとはね……ちょっとビビったよ」



 ナンバーズをしまいつつ、地面に横たわる少女に語りかける。応答はない。

 当然だ。たった今、私が彼女の魂ごとナンバーズを回収したのだから。

 少女の身体を壁に凭れさせてから、フォトンモードを解く。
 途端、とてつもない頭痛と吐き気と目眩が一斉に押し寄せてきた。思わず膝をついてしまう。



「うぇっ」



 女のプライドで戻すことだけは堪えた。いくら人気がないとはいえ、外で吐くとかない。それはちょっと女として、まずい。私のなけなしのプライドがやばくなる。

 ぐらつく視界のまま、失神している少女を映す。
 これから先、この名も知らぬ少女はしばらく目を覚まさないだろう。

 ……こんなのをカイトさんは毎回体験しているのか。
 想像すらできぬタフネスさだ。私はたった一回のこれだけで、かなり限界に近いというのに。

 ふらつく足取りで路地裏を出て、手近な公衆電話に小銭を投入。病院に場所と少女の情報だけ伝えて、会話を打ち切った。悪戯電話と処理されなければいいのだが。

 近くの壁に背を預けていると、徐々に痛みの波が引いてきた。その頃になって、遠方から救急車らしきサイレンが聞こえてきた。それは確かに此方に近付いてきているようで、私は胸を撫で下ろした。

 ──ナンバーズごと抜き取った魂は、どこに行くのだろう。
 知らない。そんなことは私の管轄外だ。そこまで気にしていられない。

 ……なんてね。

 とことん非情になれないから、救急車なんて呼んでしまう。それが自責の念を強めるだけだと解っていても、だ。

 ようやく正常に戻った身体を、壁から離す。回収したナンバーズが確かにあるのを再度確認してから、私はハートランドがある方角へと足を向けた。



少女Aの魂を狩る七日目。