2. 一時終幕血塗れのクラウスが少女を横抱きして戻ってきたときには、全てが終わっていた。 繭も、それを守っていた騎士も触手も霧散した。繭の核となっていた少女を奪取したからだろう。いまはその少女も、クラウスの腕の中ですやすやと眠っていた。 「どんな魔法を使ったんだ?」 呆れたような口振りでそう問いかけたのは、スティーブンだった。 眠る少女をたまに覗き込みつつ、ライブラのメンバーは帰路を辿る。 「繭の核となっていたこの娘には、意識すらなかった筈だ。どうやって此方に引き戻した? 怪舌が抵抗してきただろう?」 「……うむ」 クラウスは苦い顔で頷いく。 実際、核だったときの少女は酷いものだった。目は虚ろで焦点もろくに合っておらず、ただ口だけが──正確には舌だけが別の生き物であるかのように動いていた。 ──だから、ただひたすら言葉をかけた。手を伸ばした。少女の口がクラウスの手に噛み付いてこようと、決して引かなかった。 「彼女が口にした言葉は具象化する。故に『生きたい』と口にさせさえすれば、助かるのではないかと思った」 「……またきみらしい、無茶な理論だ。それが成功しているんだから、何も言えないけどね」 「旦那、そりゃマジか!? よっしゃ、『ザップ・レンフロが大金持ちになる』と言わせれば……!」 「ザップ。おまえが可哀想になる前に言っておくが、怪舌の効果には時間制限があるぞ?」 「何だよそれ使えねえ!」 「いだだだ何で僕に当たるんすか!」 レオナルドに八つ当たりするザップ。そんな二人を笑いながら、その制限を取っ払ったのが暴走状態であることは黙っておくスティーブンだった。 眠る少女の頬をつつきながら、K・Kが悲しげに微笑む。 「こんなプリチィ子が、兄弟の為に一人でHLに来たのね……。ああもう、その父親をぶっ飛ばしてやりたいわ!」 「そうだな」 K・Kでなくとも、少女に行われた虐待を聞けば顔をしかめる。二人の子を持つ母親でもある彼女は尚更であるようだ。 そういえば、とスティーブンがクラウスへ顔を向ける。 「その娘、どうするんだい? まさかほっとくわけにもいかないだろう。知らぬ間にまた暴走されても敵わない」 「……それについてだが」クラウスはわずかに口ごもって、「ライブラで保護しようと思うのだが、どうだろうか」 レオナルド、ザップ、スティーブン、K・Kは顔を見合わせてから──打ち合わせでもしてあったかのように、揃って肩を竦めた。 レオナルドがへらりと笑う。彼の頭上で、音速猿のソニックも同じように笑った。 「クラウスさんがそう言うなら、反対する人はいませんよ」 「──ありがとう」 ようやくそのとき、クラウスは安堵したように微笑んだ。 そして──彼の腕の中で眠る少女も、安心したように口元を緩めた。 ← | 戻る |