6.危機撤収だ、とスティーブンの声が夜空に響く。 「各自散開し、ポリスを撹乱した後“執務室”に集合」彼はザップの方へ顔を向けた。「ザップ。お前はお師さん達をお連れしてくれ」 「ええッ!?」 とても嫌そうな反応だった。またご機嫌を損ねたら──とかそういうことは考えてないんだろうな、ザップはきっと。 と、汁外衛氏がシャアアシャキャアアと喋った。ザップが通訳する。 「良い。儂はもう去る」ちょっと嬉しそうな顔でザップが振り向いた。「──みたいすよ?」 「そうですか? 十分なおもてなしも出来ず、申し訳ありません」 「気にするな。端から期待してはおらん。だが、貴様らは対 汁外衛氏は続ける。 「合格じゃ」 「……は」とザップ。 「こいつを任せたぞ」 「え?」と指差された謎の魚っぽい彼。 そして、汁外衛氏は私に振り向いた。 まさか此方を見るとは想定しておらず、知らず肩が跳ねる。 「小兎よ」汁外衛氏の口から紡がれたのは日本語だった。「確かに“鬼”は禍を引き寄せる。だが、それに打ち勝つも打ち負けるも貴様次第じゃ」 「え────」 「今日の心を忘れるな。恐怖に呑まれるな。さすれば恐れることはあるまい」 気張れよ、と汁外衛氏はザップたちに向き直る。 「ではな」言うだけ言って、彼は忽然と姿を消した。 ……夜風が私たちの間を吹き抜けていく。もっと正確に言うなら、弟弟子さんと私たちの間を。 「……………………」 「……………………」 「……………………」 全員が、状況に置いていかれていた。 その中でも一等付いていけていなかったのは、たぶん──一番の当人だ。 「……聞いて、ないです」 ふらり──ばたん。 弟弟子さんは、可哀想なぐらい力なく倒れ込んだ。 「おわ、マジかコイツ」 「……過労とショックのダブルパンチだな」 冷静な分析をしている場合か、スティーブン。 パタパタと倒れた彼に駆け寄り、何度か頬を叩く。反応なし。命に別状はないだろうが──怪舌で無理矢理起こして歩かせるのも酷だろう。 クラウスさんは気が引けるし、スティーブンは何となくアレ。アレったらアレ。──あの謎の巨体はいつの間にか居なくなってるし、チェインに頼むのも……となれば、残るのは一人だけ。 「ザップ、運ぶの手伝ってよ」 「はァ!? 何で俺!?」 「アンタの弟弟子なんでしょ。いいじゃない、別に。っていうか私が手伝ってあげるだけ有り難いと思いなよ」思い付いて、ほら、と付け足す。「一発殴るのチャラにしてあげるから」 「まず何で俺がお前に殴られるの前提なんだよ!?」 ← | 戻る |