16.
<春> ×月××日 晴れ
タワーオブヘブンからの帰り道、なんとジャノビーがジャローダに進化した。やばい泣きそう。
この喜びを分かち合おうと写メってチェレンに送ったら、なぜかダイケンキの上に乗って決めポーズを取っているベルの写真が返ってきた。
え?なにお前らまた一緒にいんの?
<春> ×月××日 曇り
進化したジャローダに調子に乗り7番道路のトレーナーから吹っかけられた勝負を受けまくってたら、ジャローダが結構な深手を負ってしまった。たとえトレーナーのミスでも、怪我をするのはポケモンだけだ。
悪い、ジャローダ。完全に俺の判断ミスだ。
ぐったりとしたジャローダの姿に、苦い後悔を抱いた。
すごい傷薬で早急に手当てしたかいがあり、怪我の状態はすぐに回復した。傷薬は、冒険前からチェレンに口をすっぱくして常備しろと言われて買い込んでいたものだ。その時はただ単にうざったいとしか感じなくても、後々一人になってみてやっとそのありがたみが解る。それがチェレンとお母さんというものだ。
ジャローダのやつ、こんな状態でも偉そうなのな。やせ我慢して踏ん反り返っちまって。
そのツルリとした頭を、ポンポンと軽く撫でておいた。
<春> ×月××日 曇り
穏やかな日常だ。
先日の件を反省して、俺は少しゆっくりフキヨセシティの観光でもすることにした。
思えば、カノコタウンを出てから、ずっと怒涛の日々だった。ジムリーダーと闘ったり、プラズマ団と闘ったり、プラズマ団と闘ったり、ストーカーに悩まされたり、ストーカーがプラズマ団の王様だったり。
思わず溜息をつくと足元でとぐろを巻いてたジャローダが顔を上げたので、なしなしと頭を撫でた。
せめてもの詫びにと先日ライモンシティで受け取り、一度聴かせたらすっかりジャローダが気に入っていた鈴を、鞄の横に下げてみる。歩くたびにチリンチリンと優しい音がして、俺からするとやや気恥ずかしいのだが、ジャローダは心地よさそうに目を細めてすり寄った。
本当に、穏やかな日常だ。ここ1週間ほど俺の頭を悩ませていたあいつの姿が見えない。
ひょっとしてあの一本橋から落ちた日の怪我、結構重傷だったんだろうか。平気そうな顔に見えたが痩せ我慢をしていた可能性もあるし、もっとしっかり見ておけばよかったかもしれない。いや心配とかしてねーけどな。オタマロが気にするからな。
ついでにオタマロを撫でていたときのNの赤い頬も思い出し、なんとなく落ち着かない気分になった。なんだこれ。
<春> ×月××日 雨
梅雨にはまだ少し早い時期なのだが、このところ雨が続いている。オタマロなどは湿気が増して心なしか調子が良さそうだ。ご自慢のヌルヌルボディもさらにヌルヌルに磨きがかかり、ほんとなんとも言えない感触だ。
ジャローダもすっかり元通りだし、明日はジムに挑戦しよう。
宿の窓から外を眺めると、音も届かない向こう側で、春雷が空を光らせていた。不思議と胸がざわつき、ついでに何故かあの電波青年まで頭に浮かんできたので、振り払うようにカーテンを雑に閉める。やはり長くポケモン勝負をしない日々というのは調子が狂うものらしい。
なんとなく、大きく何かが変わる気がした。