誕生日って、知ってるかい。
その人が生まれた当日。誕生の記念日。誕日。誕辰。バースデー。色々と言い方はあるけれど、まぁ要するに文字通りの日なんだってさ。

来週、トウヤがその誕生日らしい。

普通の人間は、誕生日をお祝いして何かプレゼントを送る。いつか本で読んだコト。だけとボクには理解出来なかったコト。
今なら、理解出来るよ。――大切なヒトがこの世界に生まれてくれた日を、祝いたくない筈が無い。






おめでとうをキミに



Side:ジャローダ


何を貰ったら嬉しいのかなぁ。

その綺麗な顔に愁いの色を浮かべて、緑のヒトは言う。
「ねぇジャローダ、トウヤは何をあげたら喜んでくれると思う?」
先程から難しい表情で頭を悩ませているこのヒトは、どうやらトウヤのコイビトとやららしい。私たちの言葉が解る、とっても珍しいヒト。最初は警戒していたけれど、時折撫でてくる手が酷く優しいから嫌いじゃあない。
そのヒトが、今私に彼が一生懸命頭を悩ませてる事柄を相談してくる。ポケモン相手に真剣に相談なんて、本当に変わったヒトね。
「いつも一緒にいるキミなら、何か分かるんじゃないかと思って」
なるほどね…良いわよ、協力してあげる。まぁ私たちに解るニンゲンの事なんてたかが知れてるけど。
それで、トウヤが贈られて喜ぶ物だったかしら?……そうね。やっぱり、好きな物を貰えれば嬉しいんじゃないかしら。
「そうだね。…でも、トウヤの好きなモノって何だろう?」
トウヤの好きなモノ。まずお金でしょ。あとショップで売れば高い道具、戦闘で役に立つ道具も好きでしょうし。勝つことも大好きだわ。
……ああでも、あの人が1番好きで大切にしてくれているのは、きっと私達ね。
「そっか!確かにそうだね!」
ええ。――それと、アナタのことも。
え、…ボクも?そう問い返してひとつ瞬きした緑のヒトは、少し間を置き今度は急にモジモジしだした。
腰に付けた物をしきりに弄って、あー…だのうー…だの意味不明なうめき声を漏らす。
……人づてに聞いただけでこんなに喜んでくれるんだから、トウヤももう少し素直になって言ってあげればいいのに。まぁでも、あの人の性格じゃ厳しいわね。
「本当にボクのことも好き…なのかな?」
好きじゃ無かったら、コイビトになんかしないんじゃないの。
「そっか。そう…だね、うん。ありがとう」
アナタの役に立てたなら嬉しいわ。それで、プレゼントはもう決まったの?
「ううん。でも少し見えてきたんだ、キミのおかげで。……お礼にボクの全身から溢れるラブをあげよう」
全くいらないわ。私にはもうトウヤからの溢れる愛があるから。
そう伝えると、緑のヒトは「羨ましい!その愛をボクにもわけて!」そう言ってギュウギュウ私に抱き着いてきた。



トウヤが彼を鬱陶しがる理由が、ちょっと解ったわ。










Side:チェレン


「誕生日プレゼント?」
向かい側に座った光りの無い目をした青年の意外すぎる質問に、思わず聞き返した。







何で、僕なのかな。
変な緊張でか妙に渇いた喉を、冷めかけた紅茶で潤した。まろやかな味が舌に広がる。さすがサンヨウシティのカフェ、冷めても美味しい。
今の自分の気分にそぐわない明るい日差しが、僕と彼の座っているテラスを柔らかく包む。

元々、僕はNという男のことが余り好きじゃない。というか、オブラートに包まず言ってしまえば苦手だ。
確かにNの生い立ちには同情しているし、ソレを思えば今現在の彼の理解し難い言動もある程度は致し方ないのかもしれない。だけど、だからと言ってソレを理解した所でNへの苦手意識が消えるかと言うと話は別で。
嫌いではないのだが決して好んで関わり合いになりたくは無い人種、それが自分にとってのNだ。
Nもそれを理解しているのかしていないのか、普段は余り声をかけてこない筈なんだけど。
「……それで、何で急に僕に誕生日プレゼントの事なんか聞く気になったのさ」
「来週、誰の誕生日か覚えてるかい」
「来週……?ああ、そういえばトウヤの――」
そこまで言いかけて、漸く合点がいった。ああ成る程、トウヤの誕生日だからか。それなら幼なじみでトウヤの事をよく知っている僕に尋ねてきたのも納得がいく。
本人達の口から直接告げられた訳ではないけど、彼等の関係には以前から薄々気付いていた。自分は決して察しが悪い方では無い。
正直その事に複雑な気分にならなかったと言えば嘘になる。…だけど、ソレに気付いてしまった時も別段驚きはしなかった。
Nの失踪後、あの気難しい幼なじみがNのことを必死に探していたのをそばで見ていたし。それに――

「プレゼント。自分が好きな物が、案外相手も貰ったら1番嬉しいって言うけどね」
「ボクの好きなモノかい……?まずポケモンに、それから規則正しく並んだ数列…黄金比…円運動…幾何学。ああ、あとはトウヤからのラブかな」
「そっか」

――昔から、トウヤは変なモノに好かれやすかったからなぁ…。
ていうか、コイツ今"ラブ"って言った時一瞬顔赤らめたんだけど。勘弁してよ。
げんなりとして思わず溜息をつきそうになったけど、何とか眼鏡に手をかけて顔を覆うことで誤魔化した。相手もあれで年上だし、流石に失礼だろう。
……ほんと、メンドーだな。
自分の頼られれば突き放せぬ世話焼きな性質が、こういう時ばかりは呪わしくなる。

自分を慰めようと出されたモモンの実のタルトに手を伸ばすと、ふとヤナッキーを入れたモンスターボールがガタガタと騒ぎ出した。多分ケーキが食べたいのだろう。
ボールから出してやると案の定タルトを凝視してきたので、一口サイズにフォークで切り分けて差し出してやる……が、ヤナッキーはそちらは無視して皿の上でほぼ丸々残ってるタルトの方を手掴みで食べ始めた。全く…さすが特性"くいしんぼう"だけあるよ、キミは。
今度こそ誰彼憚る事無く盛大な溜息を吐くと、不意にテーブルの向かい側からクスリと笑い声が聞こえた。視線をそちらに向けると、堪えきれないといった様子で吹き出すNが視界に入る。
「……なに」
「ああごめん。でもそのヤナッキー…随分キミと打ち解けてるみたいだね」
「単に図々しいだけだよ、コイツは」
意識せず声が刺々しくなってしまい一瞬後悔する。だがNは特に気にした様子も無く、目を細めて必死にタルトを頬張るヤナッキーを見守っていた。
……この青年の、こういう所が苦手だ。

「……そんな事より、トウヤへあげる物を相談したかったんじゃないの」
「ああ、そうだったね。チェレンは何か良い案、あるかい?」
「んー…トウヤは基本何を贈っても仏頂面しか返さないからね」
実用的な物を贈る…ぐらいしか思いつかないな。
頭を捻って考え込んでいると、ふいにタルトを食べ終わったらしいヤナッキーが急にNに向かってジェスチャーをしだした。
――ひょっとして、Nに何か伝えようとしている?
「ヤナッキーは何か君に言ってるのかい?」
「う、うん。…彼が良い案を思い付いたからボクにアドバイスをって…―」
それだけ告げて、Nはヤナッキーの方に意識を向けだした。


そして、盛大に赤面をした。


「えっ…ボ、ボク自身をトウヤにプレゼント?」
「……いやいやいやちょっと待ってストップ」
「確かにジャローダは、トウヤはボクのことも好きだって言ってくれてたけど……でも駄目だよ。だってもう既にボクはトウヤには身も心も?全部あげてるし――」
「ねぇ聞こうよこっちの話」
Nは更にこっちが砂を吐きそうな事をほざいてる様な気がしたけど、もう僕の耳はその戯れ言を受け入れることを拒否していた。
……ヤナッキーが、本当にそんな事を?いや落ち着いて僕、Nの言う事なんて信用する必要ないよ。
そりゃあ確かに以前トウヤが「Nの奴、マジでポケモンの言ってる事が解るっぽい」とか言ってた気がするけど。確かにヤナッキーはヤナップの頃から可愛いメスが大好きで技もかけられてないのに何故かメロメロ状態になることが何度かあった奴だけど。……確かに今現在Nと相対してるヤナッキーの顔が、何故かニヤついてるように見えるけど。

「だけど!僕のヤナッキーがそんなこと言う筈ないよ!」
「ええっ!?ボクをプレゼントっていうのはそういう意味なのかい?……そ、そんな恥ずかしいこと出来るわけ――」
「僕のヤナッキーをこれ以上汚すなぁ!!」




苦手?オブラートに包み過ぎたよ。
やっぱり、この男は大嫌いだ。









Side:ベル

「誕生日プレゼント?」
「そう、トウヤの」
「……そっかぁ!来週だもんね!」
そう告げると、妙に幼い仕種で目の前の青年はうんと頷いた。


トウヤへの誕生日プレゼントかぁ。…そういえば、あたしもまだ今年は用意してなかったな。ちゃんと考えとかなきゃ。
「Nは、トウヤの誕生日初めてなんだよね?」
「うん。……というか、誰かの誕生日を祝うの自体初めてなんだけどね」
「そうなの?それは気合い入っちゃうねえ」
「気合い入っちゃうんだ」
そう言って、お互いクスクス笑い合う。

実を言うと、あたしはNの事はよく知らないんだけどね。冒険中は一度会ったきりだし、トウヤやチェレンに話を聞いたぐらい。
だけどね、あたしはNのこと、結構好きだよ。……だって、Nのことを話すトウヤはね。時々嘘みたいにすっごく優しい顔をしてるんだよ?本人は全然気付いてないみたいだけど。
そんなに笑わないトウヤのそういう顔を見るとなんだかこっちまでホワホワ幸せになっちゃって…だから、トウヤにそんな表情をさせるNのこともなんだか好きみたい。
「…えっとね。プレゼントももちろん大事だけど、それより"おめでとう"っていう言葉とか気持ちの方が大事なんじゃないかなあ」
「……気持ち?」
「そう、気持ち。あとはねえ……ケーキとかを用意したげるといいよ」
「へぇ、誕生日ってケーキを食べるもんなんだ」
「うん!」





……トウヤのために真面目な顔で一生懸命自分の言葉をメモしている目の前のNが、あたしはやっぱり好きみたい。





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