1.
<春> ×月××日 快晴
雲ひとつ無い、見渡す限りの青空が広がっている快晴。家を一歩出れば春特有の暖かい風が頬を撫でる。これからの旅への希望しか感じさせないような青空に、天気までが俺の冒険を応援してくれてるような気がして気分が良くなる。
面倒くさがりで何事も三日坊主な俺だけど、これを機に日記でも書いてみようかと思う。
始まりは、アララギ博士から届いた3つのモンスターボールだった。なんでもアララギ博士は俺達(俺、ベル、チェレンの幼馴染三人トリオ)に各地を旅して、ポケモン図鑑を完成させてほしいらしい。モンスターボールの中に入った3匹のポケモンは、そのための餞別なんだと。なんとも気前のいいことで。
しっかり待ち合わせ5分前には集合したチェレンといつも通り遅れてきたベルと一緒に、俺の家に贈られてきたポケモンからそれぞれ自分の気に入ったポケモンを選んだ。…いや、チェレンは余り物のポカブを強制的に選ばされてたな。まぁ、気に入ってる様子だし構わないだろう。
これからよろしくな、ツタージャ。
ポケモンを手に入れた途端いきなり勝負をふっかけてきた血の気の多い幼馴染共は何とか倒せたが、おかげで俺の部屋は滅茶苦茶だ。Wiiが無事なのが唯一の救いといったところか。
「ふええ、ポケモンってすごーい!!」と全く反省した様子の無いベルには若干イラッとしたが、まぁベルだし気にしないことにする。
…それに、ベルの言っていることにも同意できる。
正直、ポケモンがここまで凄いとは思わなかった。こいつらはこの小さな体の何処にあそこまでのエネルギーを秘めているんだろう。思わずつい先程パートナーとなったばかりのツタージャをジッと見つめると、こちらを振り返ったツタージャが誇らしげにひとつ鳴き声をあげた。
グチャグチャになった俺の可哀想な部屋に気落ちしつつも、初めてのポケモンバトルに冷めやらぬ興奮を抱えながらリビングに下りてくと、やたらと上機嫌な母さんがいた。
申し訳なさそうな様子で部屋の片付けを申し出るチェレンとベルの言葉を遮って、自分が部屋を片付けておくから気にするなと言う母さん。いつになく優しいのは、きっと俺達の旅立ちを知っていたからだ。
アララギ博士から冒険の目的を聞き、母さんの、
「ポケモンだけじゃなくてイッシュ地方のすてきなところ、いっぱいいっぱい見つけてステキな大人になるのよ!じゃ、いってらっしゃい!」
とのありがたい言葉を聞いた後、俺は一番道路に向かった。…カノコタウンは何も無い辺鄙な田舎町だったけど、離れるとなると寂しいもんだな。
そういえば、俺とチェレンは何の障害もなく旅に出れることになったけど、ベルの奴は親父の強硬な反対にあったらしい。まぁ、親父さんの気持ちも分かるけどな。なんたって手塩にかけて育ててきた大事な大事な可愛い一人娘だし。しかもベルはおっとりしてる…と言えば聞こえは良いが、かなりマイペースで正直ちょっと頼りないところのある奴だし。
…だけど、冒険をしたいという子供の気持ちは、きっと誰にも止められない。
一番道路に着くと、これからの冒険への期待を隠そうともしないベルと、隠そうとしても隠し切れてないチェレンが待っていた。でもきっと、俺もこの2人のことを言えない顔をしていたんだろうな。
「ベルが旅をはじめるなら、最初の一歩はみんな一緒がいいって」
「ねえトウヤ!みんなで一緒に一番道路にふみだそうよ!」
「…そうだな」
「あっトウヤが笑ってる!めずらしー!ねぇねぇ見てチェレ…」
「ほらほら、2人ともじゃれてないでさっさと始めるよ。じゃ、行くよ!せーの!!」
俺達の冒険は、きっと希望に満ち溢れている。