13.



<春> ×月××日 晴れ

 ホドモエシティに着いてしばらく進むと、チェレンが険しい顔をした見知らぬオッサンと相対していた。


 チェレンと相対してたオッサン──ヤーコンと名乗った──はどうやらこの街のジムリーダーらしい。開口一番悪態をついてくるあたり、たぶん気難しい男なのだろう。
 しかめっ面のヤーコン曰く、俺達を通すために橋を降ろし、結果捕らえられてたプラズマ団が街中に野放しになってしまった。だから俺達にも探すのを協力しろと。
 ギブアンドテイクと言うヤーコンの言葉には微妙に納得出来なかったが、まぁプラズマ団を野放しにするのも気が咎めるし仕方ない。……本当に、何処でも問題を起こす奴らだな。
 メンドーだとぼやくチェレンに心底同意した。








<春> ×月××日 雨

 まさかとは思いつつもチェレンと共に冷凍コンテナ内を捜すと、最深部に本当にプラズマ団がいた。しかも中心には七賢人の一人ヴィオ。寒がりらしいソイツを他の団員達が押しくら饅頭で暖めてやってる光景はかなり間抜けだった。賢人とは。

 集団で襲い掛かられた時はさすがにヒヤッとしたが、何とか奴らを無事取り押さえられた。ちょうど良いタイミングでやって来たヤーコンの部下達にプラズマ団員達が連行されていく。
……まったく。俺もチェレンも寒いのは苦手なんだから、こういうのは勘弁してくれ。








<春> ×月××日 曇り

 久しぶりに宿で寝れたからか、爽快な気分で朝目が覚めた。今日はなにか良い事がある気がする。






 朝の俺の予感は、どうやら勘違いだったらしい。昨日せっかく捕まえた筈のプラズマ団を、ゲーチスの策略によって解放する羽目になった。
 初めてカノコタウンで演説を聞いた時から薄々感じてはいたが、ゲーチスという男はかなり厄介なキレ者らしい。一応"賢人"を名乗るだけはあるのか。あの頭に生えてる3本のアンテナは、どうやらただの飾りじゃない様だ。


 …つーか、せっかく会ったんだからゲーチスの野郎一発殴っておけば良かった。あいつがとんでもないことを散々Nに吹き込んだせいで、俺は厄介な悩み事がひとつ増えたのだから。一発と言わず百発ぐらい殴る権利はある気がする。
 そもそも何であのオッサンはそんな嘘を吹き込んだんだ。プラズマ団のオーサマとやららしいし、Nはあのオッサンの上司なんだろ?いまいち実感が湧かないが。上司をそんなすぐバレる嘘で騙すメリットって何だよ。実施で教えられたとか言ってたしひょっとしてただの変態なのか?
 実施──そうだ、Nはそう言っていた。
 ゲーチスの手がNに触れるところを想像する。なぜか吐きそうなぐらい胸がムカついた。
 きっと男同士の濡れ場を想像したせいだろう。やっぱり一発殴っておけばよかった。クソが。








<春> ×月××日 晴れ

 6番道路で鍛えまくった成果が出たのか、ジムリーダーのヤーコンのオッサンも無事に倒せた。
 今までどのジムもジムリーダーに辿り着くまでには無駄に凝った仕掛けを潜り抜けなければならなかったが、それらと比較してもホドモエジムはかつてなく壮大だった気がする。とりあえず、地下に潜りすぎだろうオッサン。
 リフトで何回も昇り降りした末にようやく辿り着いたヤーコンを倒すと、6番道路の先にある洞穴の前で待っているように告げられた。そういやあそこの洞穴の入口は、黄色い蜘蛛の巣が張ってあり通れないんだっけか。
 全く……こちらを褒めたかと思えば"気に入らない"と言ったり、複雑なオッサンだな。










<春> ×月××日 晴れ

 6番道路に入る手前の所で、いつもの調子でベルに勝負を挑まれた。




「あたし強くないから、上手にいえないけれど…トウヤはポケモンの気持ち、よくわかってると思う!」
 お前だって充分強くなったよ。そんな言葉が、勝負に負けてもなお朗らかに笑うベルに喉元まで出かかって、僅かに躊躇した後やはり飲み込む。俺がわざわざ何か言ってやったりしなくても、きっとベルの奴は自分なりの正しい答えを見つけるのだろう。ポケモンと一緒に、アイツも強くなったから。
 ベルは俺に親父さんから貰った秘伝マシンを渡すと、チェレンにもあげるからと無邪気に笑いながら去っていった。…たまにマイペース過ぎて苛付く事もあるけど、良い奴なんだよな、ほんと。


 ──トウヤはポケモンの気持ち、よくわかっていると思う!…か。
 俺は本当に、ポケモンの気持ちなんて解ってやれてるんだろうか?…最近、そんな疑問がふと頭によぎる瞬間がある。
 プラズマ団の言うことなんて真に受ける気はない。カノコタウンで初めてポケモンを渡されたあの日から、俺なりにポケモンを大切にしているという自信はある。アイツらに信頼されているという自信も。それでも、アイツらの全てが解るわけじゃない。
 けれどもそれは、きっと仕方のないことなのだろう。言葉を同じくする人間ですら完全に解り合うことは難しいのだから、ポケモンなんて言わずもがなだ。だから俺にできることは、目の前にいるヤツと自分なりに向き合うことだけだ。
 そこまで考えて、一瞬緑髪の青年がちらついて、消えた。
 
 そうだ。言葉の通じる人間ですら、わかり合うということは難しい。





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