spiteness



トウヤは、凄く意地悪だと思う。
机の向かい側で美味しそうにヒウンアイスを食べているトウヤをぼんやりと眺めながら、そんなことを考える。
だって、いつも酷い事ばかり言うし、ボクが頻繁に話しかけると鬱陶しがるし、すぐ殴るし。おまけに、つい先程まで丸3日も無視されていた。元の原因はボクにあったとは言え、丸3日もだ。とにかく、彼は可愛い顔をして意地が悪い。

だけど、同じぐらい優しいとも思う。
トウヤに敗北して旅をしてから、ボクはそれまで知らなかった色々なことを学んだ。それは確かにボクにとってプラスな事の方が多かったけど、同時に自分自身がどれだけ歪な環境で育ったかも次第に気付かせていった。…それにボク自身はこのポケモンと対話出来る能力に感謝しているけれど、それを旅先で薄気味悪く思われたことも一度や二度では足りない。
だけど、トウヤはそんなボクに側にいても良いと言ってくれた。ボクが慣れない事をしていると、さりげなくフォローしてくれたりもする。
…−意地悪だけど、彼は優しい。
頭の中でそう結論を出し、ひとり満足げに頷いていると、いつの間にかトウヤがアイスを食べる手を止めこちらを眺めていることに気付いた。
ボクもトウヤの方に顔を向けると、彼はあからさまに呆れた様な顔で口を開く。
「何ひとりで頷いてんだよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって…酷いなぁ。キミのことを考えていたのに」
恐らくトウヤが気に入っているだろう笑顔で、そう返してみる。
彼は興味なさ気にふぅんと相槌を打つと、また何事も無かったかのようにアイスを食べ初めてしまったが、その頬は先程よりも若干赤くなっていた。素直じゃないなぁ、キミは。
ヒウン名物のアイスを食べているせいなのか、今日のトウヤは何となく機嫌が良い。いつもはあまり表情を崩さない顔が、今日はどことなく緩んでるように見える。こんな簡単にトウヤの顔を変えられるなんて羨ましいなぁ。正直ちょっと妬ましい。ボク、生まれ変わったらアイスになりたいな。あっ、でもアイスだとトウヤに抱き着いたり手をつないだりは出来ないんだよね。じゃあボクバイバニラになりたい。……あれ?でもバイバニラにも手足は無いか。つまりアイスだとやっぱり抱き着いたりは出来ない。うーん、やっぱりアイスは考え直した方がいいかなぁ。
そんな事をツラツラ考えながらアイスを見つめていたせいか、トウヤが何か勘違いしたらしい。
「何だよそんな物欲しそうな目で見て…食いたいのか?」
「え……?あ、うん。美味しそうだし、食べたいかも?トウヤは美味しい?」
「美味しそうも何も、お前この前俺のアイス食ったばっかだろ」
「うん、そうなんだけど…正直怒ってたからアイスの味はあまり覚えてなくて……」
「…アホ」
そう言うと、トウヤは急にカップから一口分のアイスを掬い出し、ボクの口の前に差し出した。甘ったるい香りが、一瞬で顔の回りに広がる。
……これは俗に言う『あーん』と言うヤツじゃないだろうか。恋人同士とかがする。
急に、顔に体中の熱が集まった気がした。
促される様にスプーンが軽く上下に揺らされ、思い切って唇を開く。ギュッと目を閉じてから「あ、あーん」と言うと、トウヤが苦笑する気配がした。
「…ガキかお前は」
あ、今の声なんか大人っぽくて恰好良い。そんな馬鹿なことを考えている間にスプーンが口内に突っ込まれ、爽やかな甘い味が舌に広がる。バニラ味、かな?あまりアイスの種類はよく分からないけど。
冷たい感触が心地好くて目を細めると、口の中に含まされたスプーンは一度クルリと悪戯に掻き回された後引き出された。
「美味いか?」
「美味しい…」
「だろ?」
尋ねてくるトウヤはやっぱり何時になく上機嫌で、ボクはまたアイスが羨ましくなった。


「ねぇ、もう一口ちょうだい」
「…意外と図々しいなお前」
アイスが、というよりはさっきのをもう一度やって欲しくて頼んだのだが、返ってきたのは呆れた様な顔と言葉だけだった。
「ね、もう一口だけ」
「嫌だ。あと少ししかないし」
トウヤはにべにもなく断るとまたアイスを食べ始めたが、ボクの落ち込んでいる様子を見ると少し考えるようなそぶりを見せる。
そして、部屋の隅にある冷蔵庫に向かった。
「代わりに、このお得用アイスをやろう」
そう言ってトウヤが取り出したのは、この間近くのスーパーで彼が買ったアイスキャンディーだった。
……そういうことじゃ、ないんだけどなぁ。
恨めしげな目で座ったままトウヤを見上げる。そんな反応は予想していなかったのか、トウヤが若干たじろぐ。
「な、なんだよ。これじゃ不満だってのかよ」
「…キミって結構鈍いよね」
「はぁ?お前にだけは言われたくねーよ」
普段は異常に鋭いクセに、こんな時だけ鈍くなったりして。思わず首を横に振っていると、トウヤがいきなり口にアイスキャンディーを突っ込んできた。
「むぐぅ!」
「で、食うのか?それとも食わないのか?」
それ、口に突っ込んでから言う台詞じゃないよね。そうツッコミたかったが、苛立っているトウヤが怖いので大人しく食べておく。
それに、さっき一口だけ食べたせいか、確かにアイスは食べたかったし。

ヒウンアイスよりも濃厚な甘さのアイスキャンディーは少しクドかったが、それでも口内にヒンヤリとした感触を与えてくれて美味しかった。
下は小豆、上は練乳が中に詰まっているらしいそのアイスは、かみ砕くと中から練乳が垂れてきた。
あっ、これ意外と食べるの難しい。
あっという間に練乳は手首まで垂れてきてしまい、慌てて手首からアイスのてっぺんまでをペロペロ嘗め上げた。練乳の甘ったるい味が、舌を侵していく。
「ん、あま…」
少し恍惚としながらそう呟くと、向かい側でカチャリとテーブルにスプーンを置く音がした。
いきなり動きを止めたトウヤに何事かと顔を向けると、彼は妙に据わった目でこちらを見ている。不思議そうに見ていると、いきなり足早に近付いてきた。
「ト、トウヤ?」
明らかに、様子がおかしい。
熱でもあるのかと手を伸ばした瞬間、その腕を捕まれ、近くのベットに放り投げられた。



「な、なにするのトウヤいきな……むぐ!」
まるで物の様な扱いを抗議しようとした口にいきなりアイスキャンディーを突っ込まれ、何も言えなくなる。
抵抗しようとした両手は無理矢理掴まれ、ひと纏めにして縫い付けられた。ボクの両足の間に、トウヤの体が強引に割り込んでくる。
体格にさほど違いがない…うえに力はボクより強いらしいトウヤにそんな風に上から押さえ込まれれば、ボクに出来ることは限られていた。
「んんー、んんんー」
必死で懇願の声を出すと、トウヤの顔がこちらに向いた。まだ何を考えているのかよく分からない顔をしていたけれど、彼の手が顔に伸びてきたのでホッとする。
べつにこういうコトをするのが初めてって訳じゃないし、むしろトウヤに恋人同士がする事だと教えられてからは、いつもボクの方が積極的にアレコレしている。…けれど、これは何だか少し違う。
顔に伸びてきたトウヤの手が、アイスの棒を持ち上げる。そのまま少しずつ引き出していき、漸く口が自由になると安心した。
が、ちょうどアイスが口から出るか出ないかという位置まできた瞬間、トウヤはこれまで引き出していたアイスを急に押し込んだ。
「えい」
「んみゅう!?」
急に押し込まれて目を見開いているボクを気にするそぶりも見せず、トウヤはそのまま何度も口の中でアイスを行ったり来たりさせ、自分の口内で抽出と挿入を繰り返した。
「んー!?むぐぅ…んっんー、うー!」
あまりの苦しさに目が生理的な涙で潤み出す。口の端を、溶けたアイスと練乳が伝っていく感触がした。たぶん、今のボクの顔はグチャグチャでとても見れたモノじゃないだろう。
口の中のアイスが大分溶けかけてきたところで、漸く解放してもらえた。
「う、ふぁ…トウヤ、なん、で…」
口の中から出たアイスはボクの唾液を絡んでいて、取り出す時に銀の糸を引くのが視界に入った。だけどそれを恥ずかしがる余裕さえ今のボクには無い。急に十分な酸素を取り入れゴホゴホと咳き込んでいると、トウヤの手が背中に回った。
ゆっくりとした調子で優しく背中を撫でられて、段々落ち着いてくる。
「あー…悪い。さすがにやり過ぎたわ」
「ひ、ひど…っ」
珍しく謝罪はしたものの余り反省した様子の無いトウヤに文句を言おうとしたが、途中でまた咳き込んでしまった。トウヤの手がまた優しく背をポンポンと叩き、それに訳もなく泣きそうになる。
今日みたいに酷い事をした後のトウヤは、大抵普段からは考えられないほど優しくなる。
行為そのものは決して嬉しくないけれど、その後に優しいトウヤが待っていると思えば酷い扱いを受けるのもそんなに嫌ではない。
トウヤの腕の中が気持ち良くて段々微睡んできた頃、ふと今まで優しかった筈のトウヤの雰囲気が急に変わった。
「まぁでも、お前も楽しんでたみたいだし問題ないか」
「なっ…!楽しんでなんか……ひぁっ!」
笑みを含んだ声で言われ慌てて反論しようとする。
だが服を着た上から硬くなった自身をトウヤの膝で刺激され、最後まで続けることは出来なかった。そう、硬くなった自身を。
「なに、アイスくわえ込んでて興奮しちゃった?」
「あう…」
今まで見たことも無いほど綺麗にニッコリと笑うトウヤに、何も反論は出来なかった。

やっぱり、トウヤは意地悪だ。







「気持ち悪い…べたべたする」
あの後トウヤの「こういう時はアレだろ。上の口が無理なら下の口からってのがお約束だろ」という若干親父臭いような気がしなくもない言葉と共に半分溶けているアイスを後ろに突っ込まれ、更にその後トウヤ自身も突っ込まれた。
トウヤの方をありったけの恨みがましさを込めて睨みつけるが、彼の方は全く気にした様子もなく溶けたアイスの後片付けをしていた。
「そりゃご愁傷様。あーあ…お前のせいでヒウンアイス溶けちまった。まだ少し残ってたのに」
「ボクのせいって…急に変なコトしてきたのはキミでしょ!」
「いや、お前のせいだ。お前のアイスの食べ方が無駄にエロいのが悪い」
「えろ…!?」
困惑するボクに近付いてくると、トウヤは何だか少し拗ねたような、悔しそうな様子で頭を掻いた。
「…お前、これからは人前でアイス食ったりするなよ」
「え…?まぁ、キミがそう言うなら食べないけど……」
戸惑いつつも素直にそう返せば、トウヤは満足そうに口を緩めた。
「よし、いい子だ」
そう言って彼は、ポンポンとボクの頭を撫でてきた。ボクの方が結構年上だと思うんだけどなぁ…。そもそも、さっきから結構理不尽なことを言われている気がする。

……だけどまぁ、トウヤが上機嫌だしべつに良いか。

いつだって結局はそんな風に自己解決してしまうボクの馬鹿さ加減の方が、実は問題なのかもしれない。




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