4.



<春> ×月××日 雨

ジムリーダーが3人もいてしかも全員タイプが違うってずるくないか。夢の跡地の前にいた、親切な女がヒヤップをくれなかったら危なかったかもしれない。
まぁ何とかジムバッジも手に入ったし良しとするか。








<春> ×月××日 晴れ

マコモとかいう女に頼まれて「ゆめのけむり」ってヤツを取ってくることになった。正直面倒臭くて仕方ないが、アララギ博士の友人らしいから仕方ない。それに取ってきたら何かお礼くれそうだしな。
ゆめのけむりは夢の跡地にいるムンナってポケモンが持ってるらしい。



夢の跡地の前にいたベルと一緒に中に入ると、例のプラズマ団とやらがムンナを虐待していた。どうやら奴らもムンナが持つゆめのけむりが欲しいらしい。
ポケモン解放云々から考えても新種のポケモン愛護団体か何かと思っていたので、その荒っぽいやり方には驚いた。

結局母親らしいムシャーナが幻覚を見せて追い払ったが、かなり胸糞悪い出来事だった。
プラズマ団か…厄介な連中だな。




夢の跡地から帰る途中、また例のごとく付けられてる気配がした。
気付かないフリをするのも、いい加減限界だ。








<春> ×月××日 晴れ

街の中心から少し離れた細い路地を、細心の注意を払って進む。かなり入り組んだ場所を選んで歩き回っているはずなのだが、さっきから常に一定の離れた距離から自分以外の足音が聞こえる。最初は単純に気味が悪かったが、ここまでくるともうウザったいとしか感じない。
それに、何考えてるかは相変わらずわかんねーけど、案外話自体は通じるらしいってこともこの前分かったしな。
ちょうど路地の角を曲がったところで足を止め、暇つぶしに日記を書く。
最初は急に俺の足音が消えたからか、俺を散々付け回してる人物もその場に留まったみたいだが、しばらくするとまた足音が再開した。
ソロソロとした足音が、段々俺の潜んでいる角に近付いてくる。
俺は日記を書くのをやめ、息を潜めてソイツがここまでくるのを待った。俺とソイツ以外誰もいない路地裏には、ゴミ箱の据えた臭いが漂っていて、こんな場所にいつまでもいなければいけない原因を作った男への苛立ちがますます積のる。あーもう、早くこい。
ようやくその足音の主が俺のいる角に到着し、コチラをそっと窺うように覗き込んだとき、俺の苛立ちはもはや頂点に達していた。
草原を思わせる黄緑の髪が顔を覗かせた瞬間ダッシュでそこまで行き、少し驚いた様子で踵を返した男の細腕を思いきり掴む。
最初は腕を跳ね退けようとかすかに抵抗を示していた男も、俺に離す気がないと分かるとあっさり大人しくなった。
俯いて帽子の陰に隠れた顔を、一歩近付いて真下から覗き込む。思わず恒例の溜息が出そうになった。ていうか出た。
「…やっぱりお前かよ」
そう言うと、散々俺を付け回してくれた青年ーーNは静かに顔を上げた。




「…いつから気付いてたの」
「何時からも何も、最初からに決まってんだろ。テメーのその髪は目立つんだよ」
珍しく(と言ってもべつに俺はNのことをそんなに知ってる訳じゃないが)若干キマり悪げな顔で尋ねてきたNに、苛々を全面に出した声で応えてやる。
Nがどういうつもりで俺のことを付け回してたかは知らないが、いい加減我慢の限界だった。
本当なら顔を見た瞬間殴ってやろうと思っていたが、優しい俺はその前に一応理由を聞いといてやる。
「なんで俺のことを付け回したんだよ。3秒以内に言え。言わないとマジで殺す」
精一杯の苛立ちと、殺意さえ込めた目で睨み上げた。…クソッ、身長差のせいで決まらねえ。
「なぜって…」
そんな俺の様子もどこ吹く風で、Nはそこで一旦言葉を止めると小さな子供のように小首を傾げてみせた。
「…なぜだろう?」
「いやなんで俺に聞くんだよ。お前のことだろうが」
「まあ、そうだね…」
ふざけてんのかコイツ。
もういい、シメよう。一度痛い目を見れば、さすがにコイツも諦めるだろ。
そう思って拳を握ると、なにやら考え込んだ様子だったNがまた口を開いた。もういいから殴らせろよ。
「自分でも、よく分からないんだけれどね…。でも、たぶんキミに興味があるから…じゃないかな」
「お前は興味を持った人間全てを付け回す気かよ」
「どうだろう。興味を持ったヒト自体キミが初めてだから。…ひょっとしたら、キミはボクにとって特別な存在なのかもしれない」
…興味があるから、だ?そんなんでストーカーが認められるなら警察はいらないっつーの。
大体なんで一度会ってちょっと(会話とも言えない)会話をしてポケモン勝負をしただけの俺が興味を持たれなきゃいけないんだよ。つーか特別ってなんだよキモい。ほんと勘弁してくれよ。
…色々言いたいことはあったが、その全てを呑み込み、とりあえず最優先で確認すべき事項を問う。
「それで、こうやってストーカーがバレた以上、お前は俺を付けるのをやめるんだよな?」
「いや…なぜ?」
理由は今言っただろう。そうこともなげに、まるでこちらが理解の悪い子供のように問い返してくるヤツに俺は絶句し、なんとか言葉を返そうとし、口を開閉させーーそして、諦めた。
あー…もういいか。
ここまで堪えたんだから、さすがに俺を責める人間なんて、もう誰もいないだろう。そう思い、拳を握りしめ直したのだ。
「…もういい、わかった」
「わかってくれたのかい?嬉しいよ」
「ああ。お前の頭がおかしいってことが、ハッキリわかった」
告げ、俺はありったけの力をこめてNを殴り倒した後、気絶したNを路地裏に一人残して立ち去った。







<春> ×月××日 晴れ

うーん清々しい朝だ。
ジムリーダーも倒して街もあらかた回ったことだし、そろそろサンヨウシティを出るか。



サンヨウシティを出たところで、俺を追いかけてきたらしい母さんに会った。なんでもランニングシューズを渡したかったらしい。
別れてからさほど日にちも経ってないっていうのに、何故だか優しく笑う母さんの顔を見たら涙ぐみそうになった。
格好悪いから、泣かないけど。


母さんに貰った靴は、めちゃくちゃ履き心地が良かった。
イイ感じのスニーカーに俺のテンションも上がり、思わず鼻歌なんか歌いながら近くの草むらに入る。
揺れてる草むらがあったので、ちょっと俺には珍しい満面の笑顔になりながらそこの草むらを掻き分けた。
いたのは、タブンネじゃなくてNだった。
「…やあ、トウヤ」
なにか声が聞こえた気がしたが、俺はそっと草むらを元に戻しその場から立ち去った。
今日は良い1日になる気がしたんだけどな。


……そういえば、Nのヤツ妙に人の顔ガン見してきた気がしたんだけど俺の気のせいか。





ランニングシューズが貰えるのはサンヨウシティを出たところじゃなくてカラクサタウンを出たところでしたよね…。申し訳ありません。

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -