授業が終わって体育館から教室に戻る前、汗だくの顔を拭こうとポケットを漁る。……あれ、どこやったっけ。確かに更衣室で着替える際に黄色いそれをいれたはず。最後の希望を信じて、更衣室のなかを探してみる。
「……ない…」
あれお気に入りだったのに…。渋々、次の授業のために制服に着替えてジャージのつまった袋を肩にかける。今日のトイレはどうしろというんだ。自然乾燥か、自然乾燥なのか。きっとあの冷たい友人のことだ。貸してはくれまい。
「ねぇ」
「え…、…はい、なんでしょ…っ!?」
だれきった体が思わず跳ねた。この人は、澤村くんに話しかけていたあの、確か清水さんではないか…!遠くで見ようが近くで見ようが美人さんは美人さんだ。これまででないくらい心臓がばくばくうるさいです。
白くてきれいな手が差し出されたかと思えば、見覚えのある黄色いそれ。
「あっ…!」
「体育のとき落としたわよ」
「ありがとう…!な、なくしたと思ってた…」
受け取ったハンカチを握りしめて再びお礼を言うと、靴を鳴らして歩いていってしまった。せめてクラスだけでも聞いておけばよかったと後悔したのは次の授業中だった。
* * *
「ねぇ、スガくん」
「ん、なに?」
「スガくんてさ、……バレー部みんなと仲いい?」
「まぁ、仲間だからね」
「本当?」
それがどうしたのだろうか。斜め後ろに座る彼女はしどろもどろに言葉を濁らせながら机に置かれた黄色いハンカチをいじった。バレー部になにか用だろうか。疑問符を浮かべながら持っていた赤いパックに口をつけると、麻野は意を決したように少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
「…その、紹介してほしい人がいて、」
「……!?ッゴホ…!」
「!?だ、大丈夫スガくん!」
口に含んだそれを精一杯飲み込んで背中をさすってくれる麻野に向き直る。
「誰!?」
「え…と、し」
「し…?」
「清水、さん」
「…清水?」
こくりと頷いた麻野とは対象的に俺の頭は思考停止。清水、そうかマネージャーの清水か。力が抜けた体はもとの場所へ急降下。よかった…。……ん?『よかった』?
「清水さん、きれいだよね。同い年とは思えないよ」
「……麻野の方が、」
「え?」
開きかけた口を手で制する。何でもないと、下手くそなごまかしをすると麻野は不思議そうにしていた。
俺はなにを言おうとしていたんだ。
(『麻野の方が可愛いよ』なんて、)