「でも今のお前が、」
「勝ち」に必要だとは思わない。影山くんは日向くんに向かってそう言った。確かに今の日向くんじゃ影山くんに何倍も劣っていると思う。でも、日向くんはまだまだ成長する。
影山くんはチームというものがなにか知らなくちゃいけないと思う。私は、君たちが一緒に戦っているところを見たいんだよ。日向くんの強く握りしめられた両手がやけに小さく見えた。
* * *
「なぁ日向」
「……!」
知れた声がして窓の外を見ると、先に目に入ったクリスマスカラーのボール。さらに下を覗くと日向くんと菅原先輩の姿。お昼休みまで練習しているのか。こうしちゃいられない、足は自然と2人のもとへ。廊下は走るななんて言うがそんなの誰が聞くんだろう。抜け道をしようと裏に出ると自販機の前にもう1つ見知った影。
「影山を倒したくてバレーやるの?」
「えっ!?えーっと…」
タイミングがいいんだか悪いんだか、そこにいたのは目覚めのヨーグルトと書かれたパッケージのパックを持つ影山くんの姿だった。
「おれ、もう負けたくないです」
確かに聞こえてきた日向くんの声に心臓が速く脈を打つのがわかった。そうだ、私だって日向くんに勝ってほしい。
「……だそうだよ、影山くん」
「!?お前いつから…!?」
結構前からいました。まぁ確かに足音たてないで近づいたけど。でも今はそんなことより君に聞いてほしいことがあるんだよ。小さく深呼吸をしてそのまま言葉を吐き出す。
「私は影山くんじゃなきゃ日向くんと合わせられないと思うよ?」
「………!」
「影山くんの言ったことも一理あると思う。けど、チームは1人じゃないんだから」
信じてみるのもいいんじゃない?壁に背中をつけて見上げ気味に笑う。少し見張った切れ長の目をした影山くんは私のことをとらえた。
「その時まで楽しみにしてるね」
「〜〜っ!」
影山くんは返事をしないでヨーグルトのパックをくわえたまま日向くんたちとは反対の方向へ帰ってしまった。よけいなこと言ったかな。でもスッキリしたから自分としては結果オーライだ。
さてと、ついでに日向くんと菅原先輩に飲み物でも買って行きますか。