結局、先が見えなかったので教室に戻ってきた。大地先輩と教頭が体育館を出て30分がたった。そろそろいいだろう。課題のノートを閉じて再び体育館に足を向ける。面倒くさそうなことになってないといいけど。ため息のせいで下がってしまった頭を起こすと顔に走る衝撃。潰れた鼻を庇いながら目線を正面から上へ上へ顔を上げると自分より2つ3つ抜き出した頭。


「あ、ごめんなさい」

「………いえ」


でかいな。先輩たちで大分鍛えられたと思っていたが、ここまであると首が直角になるんじゃないかな。


「あの、つかぬことをお聞きしますが」

「…なんですか」

「身長はいつくですか」

「は?」


そんな変人を見るような目で見ないでください。ただ、私は手に持たれた入部届にバレーボールって書かれていたのを見てしまっただけなんです。同じ部活かと思ったら興味が湧いてしまっただけなんです。部活の欄と同じように、男の子では珍しいほどきれいな字で書かれた指名の欄。


「月島…けい?」

「!」


月島くんは少し驚いた表情をして私を見る。


「…よく読めたね」

「ん?あ、けいって読み方?」

「よく、ほたるって間違えられるから」

「へぇ、もったいない」


とてもきれいな読み方なのにね。そう言うと月島くんの顔はみるみる怪訝そうになっていく。失敗したようだ。逃げるように別れを告げて体育館に急いだ。
あとで気がついたけど向かう場所は同じなんだから一緒に行けばよかったかもしれない。





* * *





「変な女…」


髪を揺らして走っていく小さな背中を見つめながら1人呟く。
初対面で初めてだったかもしれない、名前を読み間違えない奴。


「ツッキー!早く行こうよー!」

「山口、うるさい」

「?なんかツッキー嬉しそうだね?」

「はぁ?」

「だって」


顔が笑ってるよ。触れた頬の口角は確かに上がっていた。
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