差し出されたくしゃくしゃの入部届けを黙って見つめた大地先輩は少したって潔子さんに合図した。潔子さんの腕に抱かれた段ボール。内側に詰まっていたそれは紛れもなくここに入部した証。みんな似合うなぁとのんきに見ているとなぜか差し出されたそれ。
「潤、貴方の分よ」
「……!私、の」
今着ている上着を脱いで新たにそれを着る。鼻をかすめた新しいにおいが、自然と胸を暖かくした。
「…これから烏野バレー部として、よろしく!」
大地先輩のその言葉になにかが込み上げてきて、引いたはずの涙がまた目尻に浮かんでくる。どうしようもないくらいみんなが好きだ。やっぱりこのチームになれてよかった。
ようやくついた決心を胸に、赤くなるぐらい目を擦ってそれを拭えば、足を踏ん張って月島くんのもとへ。名前を呼ぶと少しだけ嫌そうな顔をされた。見下ろされる形で話すことになったけど怖くない、怖くない。
「月島くん、本気で戦ってくれてありがとう」
「…別に君に言われたからじゃないし」
「うん。でも、ありがとう」
笑うと月島くんは嫌そうな顔を背けて気のない返事をした。私が言いたかっただけだからいいんだけどちょっぴり寂しい気もする。諦めずに話しかけようと試みるがそれは突然の朗報によって止められてしまった。
* * *
県の4強青葉城西高校との練習試合。願ってもないそれは翔ちゃんと影山くんのやる気をさらに掻き立てたようでなにより。それと裏腹に出された条件。菅原先輩の顔つきが少し固くなった気がした。
「あの、菅原先輩」
「広瀬どうかした?」
声をかけてはみたもののなにを言えばいいかとかどう切り出せばいいかとか。迷うことが多すぎて整理してから話せばよかったと今さらながらに後悔。沈黙に耐えきれずに口を開こうとすると頭に暖かい感触。
「心配、してくれたんだろ?」
「…すいません」
なんで謝るんだよ、と眉を下げた菅原先輩の笑顔に曇りがあるような気がして。
「私、菅原先輩のトス好きです」
「……!」
「ええと、あの」
なに言ってるの、私。いきなりこんなこと言われても先輩が困るだけじゃない。思わず漏れた言葉に自分自身焦りながら次の言葉を模索。弁解しようと、動こうとする口は頭に乗った手によって停止された。トスをあげてきた少し固い、大きな手に。
「…ありがとう」
見上げた先にいた菅原先輩の笑顔にはもう雲なんてひとつもかかってなかった。