「その為のセッターだ」
影山くんが翔ちゃんの隣に立った。思わず広角をあげてしまうような変な、気分。あぁ、そうか。私、楽しいんだ。変なの、私がしてるわけじゃないのに。気持ちを抑えてコート上を見る。月島くんのサーブから翔ちゃんに渡って、影山くんに──…!?
すごい勢いでとんだボールは到達する前に地面に落ちて空を切った。それは何回も続いて、触れたかと思えばネットに体当たり。さっきはいい調子だったのに、それじゃ伝わらない。
「──影山」
声の方を見ると横にいた菅原先輩がボールをつかんでいた。
* * *
「仲間のことが見えないはずがない!!」
菅原先輩の言葉を聞いて影山くんは黙り込んだ。きっと考えてるんだろうなぁ。顔をあげた影山くんは言葉を紡いで、飛べと言った。影山くんなりにきっとなにか解決できたんだろう。翔ちゃんは驚いているけど、それ頷いた。
緊張、それから集中。こっちにまで伝わってきたそれにゾクリとなにかが走った。一寸足りとも逃さないように目に焼き付ける。影山くんがあげたボールは動こうとする翔ちゃんの手に吸い込まれていった。翔ちゃんは目を閉じていたらしいが決まっちゃえばそんなの関係ない。
あっという間にひっくり返された点数はそのまま勝利へと繋がっていく。誰かがポツリと呟いた言葉に隣に立つ菅原先輩は眉を下げて笑った。
「…楽しそうだ」
試合が終わって、見事に勝利した翔ちゃんと影山くん。大地先輩のところに行こうとする菅原先輩を引き留めて頭を下げる。先輩は驚いた顔をして疑問符を浮かべ私を見た。
「悔しいですけど私、なにもできませんでした」
「………」
「先輩が言ってくれなかったら影山くんだってわからなかっただろうし、翔ちゃんだって…」
「ちょっと、ストップ」
「むぐっ」
口を塞がれて目だけで見るようにすると菅原先輩は大きく息を吸った。
「俺だって、なにもしてないよ。ああなったのは日向と影山の頑張りだよ」
「でも、」
「それにさ、ほら」
「広瀬ー!」
名前を呼ぶ声に驚いて菅原先輩の視線を追うと手を振っている翔ちゃんの姿。驚いて顔をあげると笑った先輩がそこにいた。
「応援してくれてありがとー!!」
「広瀬は誰よりも二人を応援してただろ?」
「……!」
じわりと涙が浮かんだ目尻に確かめるように優しく頭を撫でてくれる先輩に精一杯笑った。