どうか、ばれませんように。できるだけ足音をさせないように、できるだけ息を殺すように。後ずさるようにして体育館の脇を駆け抜けた。あれは本当に月島くんだったのだろうか。初めてあったときとなにかが違う。さっきの彼はすごく冷たく感じた。


「広瀬ー!遅かったね!」

「……うん…、ごめん…」

「……?」


ひたすら走って着替えもしないまま戻ってきてしまった。二人には先輩に見つかりそうになったので逃げてきたと誤魔化す。翔ちゃんはすんなり気に止めなかったようだが、影山くんは眉間のシワを深くしたのでぎこちなく微笑んだ。少しして影山くんも諦めたのか、翔ちゃんとの練習に戻っていく。気を紛らわすため練習に入れてもらおうとしたが、止められたので隅っこで二人の様子を大人しく見つめていた。二人ともすごいスタミナだ。ドリンクを飲んだり、汗を拭いたりするだけの短い休憩を除けば立て続けに動き回る。
繰り返すうちに辺りはすでに真っ暗になった。少しずつでも邪険な空気が薄れていっている気がして闇のなか、一人でひっそりと笑う。


「オラッ、次後ろだっ!」

「よっしゃ!」


伸ばそうとした翔ちゃんの腕に到達する前にボールは降下を停止。止まった原因の腕をたどれば、夕方見た、彼にゾクリとした。


「君らが初日から問題起こしたっていう一年?」





* * *





「試合でその頭の上撃ち抜いてやる!!」


影山くんを馬鹿にした月島くんを翔ちゃんが力強く押さえる。翔ちゃんの質問に答えた月島くんはそのまま帰路についていった。
翔ちゃんはすごい。それに比べて私、なにもできなかった。影山くんが嫌な思いしてるってわかったのに、仲間なのに、なにも言えなかった。ぐっと唇を噛み締めて目線の先に走り出した。


「月島くん!」

「……この前の、」

「…私は明日、月島くんの応援はできない」


震える手を力強く握りしめて、閉じそうになる口を必死に動かして、言うんだ。言うんだ、私が。


「月島くんが手を抜かなくても、」

「……」

「翔ちゃんと影山くんは負けない!二人で勝つ!」


なにも言わないまま月島くんは行ってしまった。言えた…、緊張でうるさい心臓を押さえつけてその場にへたり込んだ。
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