翔ちゃんが持っている『勝利にしがみつく力』には私や普通の人とは違う最後の、一歩。ふわりと上がったトスに息もまだ整っていないまま嬉しそうに食いつく。


「──…セッターからのトスが上がるっていう俺達にはごく普通のことが日向に飛び込めとっては特別なことなんだろうな」


菅原先輩の言葉にゆっくりと頷いた。翔ちゃんにはちゃんとしたセッターがいなかったから、だから影山くんが翔ちゃんのセッターに。


「土曜日、勝つぞ」


『最強の敵』から『最強の味方』になってくれればいいと思う。
……とりあえず今は雑巾を持ってこよう。





* * *





「潤」

「!潔子さん!」


高校生になって初めて見た潔子さんの姿に女の私でも思わず見とれてしまった。相変わらずきれいで羨ましい。惚れ惚れしているとそのままドリンクを2つ手渡され頭に疑問符が浮かぶ。


「気になってるんでしょ」

「でも…」


チラリと大地先輩の方を盗み見るとうまく言っておくからと潔子さんは少しだけ微笑んだ。それに甘えて翔ちゃんが言っていた野球場近くの2人がいる場所へ走り出す。影山くんの後ろ姿が見えて声をかけようとしたと同時に翔ちゃんの顔面に吸い込まれていくボール。仲良くやってそうで安心したその瞬間、影山くんの舌打ちが聞こえてきて感じる前途多難。まぁ、まだこれからだ。


「翔ちゃん、影山くんドリンクとタオル持ってきたよ!」

「広瀬!ありがとう!」

「どういたしまして。はい、影山くんもどうぞ!」

「……サンキュー」


影山くんとは普通とまでいかないけど次第に話しかけても答えてくれるようになってきて同じ部活の仲間としてとても嬉しい。でも別に私にも翔ちゃんみたいにしてくれてもいいのに。


「広瀬、部活いいの?」

「うん。潔子さん…3年生のマネージャーの先輩がうまく言っといてくれるって」

「じゃあ広瀬も一緒にやろうよ!」

「えっ」


いいの?もちろん!久しぶりにボールに触れたい。それにみんなと一緒にしてみたいと思っていたからできることならやりたいけど、明日は2人が部活にちゃんと入部できるかが決まる日。私なんかが混ざって邪魔にならないだろうか。自重気味に影山くんを見る。


「……お前、やってたんだろ」

「えっ、なんで知って、」

「いつも俺らがやってるの羨ましそうに見てる」

「………うん」

「…だったら、コイツに手本見せてやれよ」

「!」


これはつまりオッケーサイン、違くても勝手にそう解釈しよう。翔ちゃんがにこにこというよりにやにや笑っていたのを影山くんがどついていたが気にしないでおいた。それより腕を捲ってやる気になっていると翔ちゃんに止められる。


「広瀬着替えて来なよ!」

「少しぐらい汚れても大丈夫だよ?」

「そっ、そうじゃなくて!」

「?」


とにかくダメ!と背中を押されたので影山くんに助けを求めるとあからさまに顔をそらされたので渋々体育館に逆戻り。着替えるのはいいとしてどうやって抜け出そうか。


「宜しくお願いしまぁーす!」


体育館を横切って更衣室に向かおうとしたら聞こえてきた4日ぶりの声。同じはずなのにこの前と違うトーンに思わず身を寄せた。


「月島 蛍です」


なにか嫌な予感がしたのは気のせいであってほしい。
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