「緑間くんはロマンチックな日に生まれたね」
「……何を言っているのだよ」
心底嫌そうな顔をした緑間くんの誕生日は今日。そう、七夕である。黄瀬くんの時みたいに盛大なパーティをこっそりと計画していた私たちを見透かしたように緑間くんは今と同じような顔を大きく横に振った。仕方なく、ちょうど七夕ということなので男子バスケ部の皆様とお願い事をしようと緑間とその紙を切っているところで現在に戻る。
「第一、他の奴等はどうした」
「笹を狩りに行った」
「………」
みんなは笹狩りに行ってしまった。いったいどこからとってくるんだよ。ホームセンターで買った方がはるかに効率がいい気がするが赤司くんいわく、「部費が減るだろう?」らしい。男子バスケ部はどこよりも部費が高いらしいのにいったいどういうことなの。思ったが顔にも口にも出さないでおいた。絶対みんな遊びたいだけでしょ。せめてまともな黒子くんとさっちゃんがついていっただけでもマシなのだろうか。
「当分みんな戻って来ないね」
「静かでいいのだよ」
黙々と紙を切っていく緑間くん。沈黙が続くがまぁこれもこれでたまにはいいかな。残っていた自分のノルマに手をつけていく。ていうかこんなにあっても誰が書くんだろうか。まさか男子バスケ部全員なんてことは言わないだろう。さすがに100枚もない。
「おい」
「え、なに緑間くん」
唯一鳴っていたハサミの音が途切れた。なんかすごい緑間くんから不機嫌オーラが出ている。なんか私したっけ、いやロマンチックとか言ったわ。さっきもすごい嫌そうにしてたしね。
説明しろと言う緑間くん。はい、しますよ。すればいいんでしょ。
「うーんと、七夕って彦星と織姫が唯一会える日でしょ?だから実は緑間くんって彦星じゃないのかなぁって」
緑間くんは意味がわからないとでも言うように眉間のシワを深くする。うまく言葉にできないけど伝えられたらいいって思う。
「だからずっと大好きな織姫を探してるんだと思う。もちろん織姫って女の子のことだけじゃなくて、緑間くんが大切だって思える人を」
「………!」
緑間くんは話を聞き終わるとふん、と鼻で笑った。バカにされるとは思っていたけどなんだかんだで傷つく。沈んだ顔をあげると髪の毛の隙間から見えた目と私の目線が交わる。緑間くんの口が開いたのでどんなバカにされ方をするのかと思ったら。
「…そんなの探さなくたっているのだよ」
「えっ」
すぐに目をそらされたけど覗いた耳がほんのり赤くなっていたから少しだけ嬉しくなった。
僕だけの織姫様
(1年に1度だけじゃなくていつも隣にいてくれる)