「黄瀬くん、これプレゼント!」
「黄瀬くん、おめでとう!」
いつも以上にすごい黄色い声に、毎年のことながら嫌気がさしてくる。今日はそう。俺、黄瀬涼太の1年に一度の誕生日なのだ。1日中投げられる、高そうなプレゼントや可愛い子からの愛の言葉。モデルとしてはとてもありがたいのだが、俺が欲しいのはそんなものじゃなくて。
当たり前だけど、辺りを見回してもいない。もう放課後だっていうのに。自然とため息も出てくる。
「黄瀬ちん、人の前でため息つかないでよ」
「そんな冷たいこと言わないでほしいっスよ、紫っち!」
なんで、お菓子を美味しそうに食べる口は緩んでいるのに目から上は不機嫌そうに歪んでいるんだ。そう言いたかったのに開いた口に何かを突っ込まれ、言葉と一緒にそれも飲み込みそうになってしまった。
「あらら、失敗」
「なにするんスか!?」
「だって黄瀬ちん、うじうじしてるからー」
面倒くさい、と美味しそうにお菓子にありつく姿を見たらもうなにも言えなくなった。それよりも正直、バッチリ当てられた言葉になにも出なかった。
「……そうっスよね」
いつまでもこんなんだったら、おめでとうどころかこのまま今日が忘れ去られてしまう。
仕方がない、強硬突破だ。どうすればあの壁を越えられるんだ。必死にありもしない方法を巡らせていると目の前の巨体が起き上がる。なんだと目線を上げれば仕方なそうな目をしながら紫っちがこちらを見下ろしていた。
ほら。出された手を自然な流れでとると、そのままずんずんと女の子の群衆のなかを割って入っていく。押し潰されそうになるのを必死に耐えて、引きずられながらついた場所は見慣れたそこ。
「ここって…、部室?」
「早く開けてよ」
「紫っちが開ければいいじゃないっスか」
いいからーと促され、渋々扉に手をかける。
『ハッピーバースデー!』
「え…?」
何度も時間差に鳴るクラッカーに頭が回らない。そこには黒子っち、青峰っち、緑間っち、赤司っち、桃っち。それから。
「黄瀬くん驚いた?」
誰よりも会いたかった君の姿。
「これ…どうして…」
「こっそり準備してたんだよ」
みんなで黄瀬くんの誕生日を祝おうってね。紅葉っちはほんのりと笑みを浮かべ、準備を始める。
今まででこれほど嬉しい誕生日があっただろうか。にやける口元を手で覆う。
すると背を向けた紅葉っちがもう一度振り向くと、いつも通りの顔で。
「誕生日おめでとう、黄瀬くん」
祝福の囁き
(なによりもその言葉が聞きたかったから)