もう通いつめて何年がたつんだろう。世界で一番の通い慣れた階段を自己新記録で駆け抜けた。そこを抜けた手前の扉の部屋に飛び込む。少し散らかったその部屋の主人はまだ最愛の部活らしく、そこはもぬけの殻だった。ベットに頭からダイブすると急に眠気が襲ってくる。もう眠ってしまおうと諦めたときには意識はダウン寸前。鼻を掠める日だまりのような匂いにいつのまにか頭は思考を停止した。
* * *
トントンと刻まれる心地のいいリズムが鼻歌混じりに階段から耳元へと共鳴してくる。帰ってきた、嫌がる体を無理矢理起こしてこの部屋の主を待つ。
「あれっ、みょうじ?」
「…翔」
明るい髪色を揺らしながら私の脇に腰かけた幼馴染みに勢いよく抱きついた。もう何百、何千とした行為になれてしまったのか、翔は私の背中に腕を回してくる。我が幼馴染み、いやここは彼氏と言うべきか。とにもかくにも、順応性の高い奴である。
ポンポンと叩かれる小さな刺激に感じる安心感。ごめん、ごめんね。きっとお腹空いてるね。お風呂にも入って早く休みたいよね。わかってる。でも、少しだけこのままでいさせて。お願い、翔を補充させてください。
「……ごめんね、面倒くさい彼女で」
「なんで?俺もみょうじと一緒にいれて嬉しいよ!」
「……ん…」
「それにさ、」
充電しないと動けなくなっちゃう、でしょ?いつか自分が言った言葉が彼の口から出るのが妙にくすぐったくて感謝を込めた言葉を送ると小さく笑うのがわかった。
ふと翔の手が髪に触れてきて、反動的に顔をあげれば。
「お疲れさま」
その一言とそのお日さまのような笑顔で電池残量は100パーセント。でも、明日になると減っちゃうから。明日も明後日も、ずっと君を充電しに行くのです。
キミ充電器
(今度は私が君の充電器になれればいい)