保管庫に似合わないキーボードを叩く音が辺りに響く。鍵開け専門の高尾にかかってもなかなか開かないほどの警備、確かにあの宝石が保管されているだけある。タイムリミットはあと10分もないだろう、そんなときにやっと開いた扉。そこから微かに見える広い部屋に似合わない小さなそれ。
「ふん、やっとか」
「うわ、ひっでー!俺頑張ったのに!」
高尾がうるさく喚くが気にせず次の作業に取り組む。赤外線は張られてない。案外、緩い警備なのか。部屋中に鳴り響く靴音を無視してそれに触れようと手をのばす。
「───……」
「真ちゃん、どしたの?」
「………だ」
のばしかけた手をだらりと垂らす。高尾は疑問符を浮かべてそれを手にとると、あぁと気づいたようにそれをもとあった場所に返す。
「……まっさか偽物とはね」
「行くのだよ、高尾」
きっと、いや確実にそれはまだすり替えられたばかりだろう。穴のあいた天井の部屋をあとにした。後ろで使っていたであろう無線機を切ると、Dの6という高尾の声が聞こえてきたので方向を転換し、そちらへ向かう。暗闇のなかに少しずつ見えてくる背中。
「止まれ」
「わ、もう見つかった!?」
ケタケタと空気にそぐわない笑い声が聞こえてきて苛立ちがこもる。内ポケットに忍ばせた銃に手をかけるが、それにいち早く気がつき容赦なく銃を振り回していった。舌打ちをし、弾倉から新たな弾を取り出す。なにか言っているのを無視して撃発。
「……こんの…っ!」
「………ッ」
続く乱闘のなか、肌を掠める銃弾。なかなかいい腕をしているらしく相手も負けじと打ち進めてくる。この戦いは止めた時点で負けだ、つまり引けない。
徐々に縮まる距離に自然と相手の面が見えてくる。そこにできた確信。まさか噂には聞いていたが本当にいたとは。俺たちが狙っている宝石、『dormir bijoux』の在りかを知ると言われている少女。
「なに、他のこと考えてんのさ!」
「!」
目を掠める銃弾に体が反転する。しまった、揺らぐ視線に映る怪しい笑み。
耳元で鳴る機械音、マズルが頭に押し当てられる。
これで終わりだ、息を殺して目をゆっくり閉じると背中に走る衝撃。
「なっ…!」
「あいにく、私にはそんな趣味はないんだよ」
膝をついた俺を尻目に、手を振り来た方と反対に走っていく背中を見つめた。
闇夜の騒音
(それは耳にうるさく鳴り響く)