警報、警報。逃げてください。動いてください私の足。頭の中に鳴り響く警報音。
服の中で怪しく輝くそれを握りしめ足取りを早める。
退却路は確保してある、大丈夫。これであとは戻るだけだ。
荒れた息を整えようと前後に動かしていた足を緩める。
「動かないでください」
カチリと回るリボルバー。やられた。まさか後ろをとられるなんて。
うるさい心臓を押さえつけ、服の中のそれに触れる。
「今触れているそれを出して、そのまま両手を挙げてください」
すぐに僕の仲間が来ますから。辺りに響くテノール。
絶体絶命とはこういう時に使うんだろうか。
───まぁそんな『たま』じゃないか。
ニヤリと怪しく笑って服の中にあるそれを振りかざした。
「はずれ」
「ッ!」
怪しく輝くそれ───バタフライナイフが弧を描く。掠めた髪が空を切った。水色に月明かりを反射するそれを纏う彼を見ると同じ色に輝く瞳。
きれい、ただそれだけだった。
戦闘体制をとった彼を嘲笑うかのように負けじとナイフを構えると引き金に手をかけるのが見えて腰に巻いたポーチに触れる。
「おっと、『これ』がどうなってもいいの?」
「それは……!」
ポーチから取り出した私と彼が狙っている『それ』にポーカーフェイスを少しだけ崩したのがわかった。
「ほしい?」
「………何を言ってるんですか」
当たり前でしょう、と付け加えた言葉を聞いてふむ。じゃあ。
「あげるよ」
「!」
それを真上に放ると反対の手でそれを切り落とした。
──あぁ、やっぱり。
「偽物だし、それ」
真っ二つになったそれは彼の足下に転がってさらに小さく弾けた。少しだけ驚いた顔をする彼に小さく手を振り言う。
「じゃあね、ポーカーフェイスくん」
もう会わないことを祈るよ。
* * *
彼女が走り去ったあと、原型を失い砕け散ったその偽物を見つめる。
「また偽物、か」
ポツリ、独り呟くと聞こえてくる自分を呼ぶ声。
「えぇ、あれは偽物でした。」
淡々と動く口に合わせて声を出す。
「ですが、ひとつ情報を手に入れました」
ポーカーフェイスを崩さずに。
ポーカーフェイス
(今度は彼女を追うとしようか)