「流星群?」

「はい、今日の夜なんですよ」


流星群、確かに朝のニュースでそんなことを言っていたことを思い出す。見たことねぇなぁと呟くと小日向はおもちゃを貰った子供のように目を輝かせる。


「すっごくきれいなんですよ!ぶわーってまるで星が落ちてくるみたいで!」

「へぇ…。じゃあ小日向は今日見るのか?」

「はい!あそこで!」


指が指された方向を見ると、そこには校舎、そして屋上。


「待て待て待て、ちょっと待て」

「?なんですか?」

「アホか!夜は学校開いてねぇだろうが!」


すると小日向はふんぞり返って言う。


「──忍び込みます!」


頭を軽く叩くとぺちっといい音がした。小日向はなぜ叩かれたかわかっていないらしく、頭に疑問符を浮かべて不思議そうに見つめてくる。この頃こいつ実はアホなんじゃないかって思うようになってきた。
再度ばれないように小さくため息をつき、言う。


「だったら、俺も行く」





* * *





『じゃあ、11時に校門で』


流星群が見え始めるのが12時かららしく、小日向は準備をしてくると家へ戻った。俺もさすがに部活があるといってもせいぜい残れるのは8時まで。1回家に戻ってシャワーを浴びても余裕があった。防寒具に身を包んでいても寒さが凍みてくる。吐いた息が白い。


「──笠松くん」


あの時と同じソプラノ。顔を上げると小日向が小走りで走って来るのが見える。その反動でふわふわとした髪と白い服が揺れていた。


「待ちました?」

「いや、俺も今来たところだから」

「じゃあ、行きましょう」


校門に向かって歩く小日向を慌てて追いかける。一体どこから入るつもりなのだろうか、正面玄関はしまっているはずだ。
小日向のあとを黙ってついて行くと、そこは見慣れた教室の外側だった。


「帰る前に開けておきました」


ちょうど確認を頼まれたので、と言う小日向に呆れながらも、夜中の学校にわくわくしている自分もいる。先に俺がのぼって小日向を引き上げた。
ガタン。やばい、音が立った。遠くから鳴り響く足音と微かな光、警備員だ。同時に顔を見合わせた。焦りと不安だけに駆られる。とりあえず、隠れろ。そう思うより先に体が動いていた。





















「誰かいるのか?」


すぐ近くで聞こえる声に抱き締めていた肩がピクリと揺れた。服が握られたのがわかる。息を潜めてばれないようにしているのに、なぜか心臓がうるさい。ドクン、ドクンと重なる異なる高さの心拍。俺と同じように小日向の心臓もうるさいのが伝わってくる。抱き締めた腕を少しだけ強めると小日向の体が緊張なのか、固まっている。


「…小日向」

「………っ」


警備員が去って行ったあと、ゆっくり体を離すと暗闇でもわかるくらい小日向の顔は赤く染まっていた。俺もつられて顔が赤くなっていく。悪い、囁くような声で謝ると小日向は顔を横にふった。


「……笠松くんなら、嫌じゃないですから」

「………ッ!」


どういう意味かわからないはずなのに今まで以上に心臓はうるさくなった。それを無視して立ち上がり、小日向の手をひいて歩き出す。繋がれた手は少しだけ冷たくなっていて、なぜかこいつらしいと思った。
屋上への階段を1歩2歩と踏む。ドアノブに手をかけ、開かれたそこにあったのは、降ってくるような流れ星。


「うわぁ…!」


小日向が両手を広げ駆けていく。輝かせた目を細めてすごく楽しそうに。
そんな小日向のことをきれいだ、素直にそう思った。そしてなにより小日向のことをいとおしい───そう感じた。

























きらめきに誘われて



(やっとわかった、この思い)




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