冬、それは私が大好きな季節で、大好きな雪が降る。星もきれいに見える。なのにどうして嫌いな体育は大嫌いな球技なのだろうか。
「なんでですかね、ちーちゃん…」
「葵、諦めな」
「うぅ…」
そう、私は何より体育はもちろん球技が大の苦手。小さい頃は体が弱くてなにもできなかった反動が今になって来るなんて、酷すぎる。
渋々ながらゴールに向かって構えていると、隣のコートから聞こえる大きな歓声。
「ナイシュー、笠松!」
「おー」
声をたどった先にいたのは、笠松くんだった。自分が動揺するのがわかる。
なんで、どうして心臓がうるさいの。静まって私の心臓。わかってるはずなのに私が追うのはボールではなく笠松くんで。目が離せない、そんなプレーのせいなのか。それとも違うものなのか。
「!」
目線がが交わった、気がした。いや、正しくは現在進行形で笠松くんがこちらを見つめている。どうしたんだろう、と不思議と見つめ返すと笠松くんは汗を拭った手をこちらに向けて軽く挙げた。
私に、かな。期待半分疑い半分、そろそろと手を挙げる。
「ねぇ、今笠松くん私に向かって手振らなかった?」
「えー!私によ!」
黄色い声を聞いて顔の横に出した手を思わず、手を元あった場所に戻した。
……そう、だよね。笠松くんだもん、私と同じことを思った女の子はたくさんいる。『私に』じゃない。
「……笠松くんってモテるんだ」
ぽつりと呟いた言葉はドリブルの音紛れて消え去った。
* * *
「お前なんで無視すんだよ」
「え」
放課後、いつも通り体育館裏に行くとなぜか笠松くんが待ち構えていた。ついでにココアをもらった。
それより。
「私、無視しましたか?」
「…………気づいてすらねぇのかよ」
盛大なため息をついてずるずると横に座り込んだ笠松くん。
記憶を最大限に巡らせる。笠松くんを見つければ声をかけるし、ちゃんと返事もする。あいさつだって欠かさない。あれ、こう思うと私って笠松くんのこと目で追ってるような…?羞恥に気づいた脳はショートしかけた。そんな脳がうまく働くわけもなく。
「わかりま、せん」
すると笠松は本日2度目と思われるため息と同じ息で呟く。
「体育のとき、手ぇ振ったろ」
どきりとした。だって、呟いた笠松くんの耳があまりにも赤かったから。
「………私に、だったんですか…?」
「……手振る女子なんてお前しかいねーよ」
でも、自分はもっと赤いのがわかった。
この熱は消えぬまま
(自惚れてもいいですか、)