「さむ……」
冬が来た。この学校に来てもう少しで2年が過ぎ去ろうとしている。そして、部長になって少しだけ時間がたった。まだ慣れてないと言ったら嘘になるが、やはり簡単に出来るわけもなく。休憩になる度にここ、体育館裏に来て一人息を整える毎日。こんなところに来るのは俺くらいだろうな、自分に苦笑いしながらそっと目を閉じる。
「───笠松くん」
上から降り注がれたソプラノにピクリと自然と肩が揺れた。
この声はそう。
「………小日向?」
目の前にいる少女は俺を見下ろしながら小さく微笑むとこんにちは、と声をかけた。
休み始めていた俺の頭は考えることをすでに放棄していたようでうまく働かない。ただわかるのは、なぜここにお前がいるのかという疑問だけだった。
小日向は俺の隣にしゃがみ込むと再び微笑む。
「笠松くんは部活の休憩中ですか?」
「……あぁ」
「お疲れさまです」
お前は、と声を漏らすと不思議そうな少しだけ驚いたような顔をして小日向はこちらを向いた。
「小日向は、なにしてんの」
「雪が降らないかなぁと」
「……雪?」
冬、と言ってもまだ11月。比較的暖かいこちらの地方では降ってもまだ先の話だ。なのに、雪。
「変な奴」
「あ」
「あ?」
「やっと、笑ってくれました」
「え」
思わず、口元に手を当てると確かに上がっている口角。
小日向はそんな俺を見て嬉しそうに、笑う。
「笠松くん、この頃なんだか悩んでるみたいだったから」
「…………!」
「だから、笑ってくれて嬉しいです」
そう言って立ち上がった小日向は俺になにかを差し出してくるりと背を向け歩き出した。
数歩歩いたところで何かを思い出したように振り替えると少しだけ意地悪そうに笑って。
「変なのは前からです」
確かにそう言った。
それからまた来ますね、と言って去って行き、残された俺とアルミ缶に入れられたココア。
それを一口だけ飲むとやっぱり冷たかった。
「言い逃げかよ…」
今の熱い体にはちょうどいい冷たさだった。
初雪が降るまでに