あれから数日がたったが俺の周りに特に変化はなかった。
「来ねぇなぁ…」
ただ、小日向が来るのが今まで以上に待ち遠しくなっただけだ。そんなときに恋慕を感じる。小日向への思いは募る一方だ。
近くで茂みを漁るような音がして顔をあげると、やっぱり小日向だった。
「すみません、待ちましたか?」
首を横に振ると少しだけ拗ねた顔をしたのがわかった。ほら冷たい、と俺の頬より僅かに暖かい手を顔に添える。その手に自分のそれを重ねると小日向が驚いた顔をした。
近くなった距離に心臓がうるさく鳴る。それに共鳴するように小日向の顔をみるみる赤くなっていった。
「リンゴみたいになってる」
「かっ、笠松くんがさせたんじゃないですか…!」
うつむく小日向の髪を見て、1人笑う。
重ねていた手を外し髪に触れると小日向の肩がピクリと揺れた。かと思えば、顔は勢いよく上がってくる。
「ななななななにして…!?」
「……葉っぱ、ついてた」
眼前でぴらぴらと降ってやると、小日向は再び真っ赤に染まり距離をとってなにか叫びながら走り去っていった。
静かになり壁に背中をつける。やばい、危なかった。ある意味離れられてよかったのかもしれない。なんかよくわからないが小日向を見ていると勝手にと手が動く。
自然と目は空になった手を見つめた。
「…そんなに、嫌だったのか」
未練がましい自分に静かにため息をつく。
* * *
「小日向!」
「!」
声をかけた瞬間、小日向はくるりと方向転換し走り去っていった。
避けられてる?いや、疑問系ではなく確実に避けられてる。まずい、この前のことがあったから確信を持ててしまう。とにかく追いかけてなければ。思い立ったが吉、だ。息を切らして走る。
「………っ!」
──いた。いたにはいたが、なんで俺のことを避けてるくせにいつものところにいるんだ。まるで見つけてほしいというように。
足音を殺して、頭を抱えて座る小日向の前に立つ。
「………小日向」
「………っ…」
返事はないが、小日向が息を飲むのがわかる。これは緊張しているときだ。
「……そんなに、嫌だったか…?」
悪いとひとつ言葉を漏らし立ち去ろうと、動く足に服従して歩き出す。なのに足がなにかに捕まれるように止まった。
「小日向…?」
振り替えると小日向の手が俺の足をつかんでいた。
「違うんです…!そうじゃなくて…、その…」
小日向は言いにくそうに再び顔を背けようとした。俺も対抗してそれを両手で制止する。じっと見つめると観念したというようにゆっくりと口を開いていった。
「……て」
「………?」
「その、恥ずかしくて…!」
……つまり俺の勘違い。小日向に負けじと俺の顔に熱が集まってくる。それを見られないように小日向を抱き締めて息をついた。
寒いのは冬のせい
(寒いのは君が隣にいないから、なんてそんなこと)