「…っ…ぅ」
足に頭を預けて、声が漏れ出さないようにシャワーは消さない。なにもかも一緒に出ていってしまえ。そうすればきっと楽になる。なのにいくら泣こうと、いくら喚こうと悲しみは溢れ出す一方方向。
気づいたときにはすでに遅し、友人がよく言っていた言葉が脳裏を過った。そのときは意味もわからなく笑っていられたけど、今なら本当にその通りだ、て嘲笑できる。
「バカだなぁ…っ…」
それは誰にも気づかれずにシャワーと一緒に流されてしまった。
* * *
髪も乾かさないままにベッドへとダイブ。もうこのまま寝てしまおうか。きっといつもみたいに寝ればなんでもなかったように笑えるはず。
意識が途絶えてしまいそうな瞬間、手に握られた携帯が震えた。わけもわからず、ほぼ反射的に出る。いや、出てしまった。
『俺』
息を飲むと同時に背筋に嫌なものが流れたのがわかった。記憶と同じように聞こえてきた呼び声にどきりともずきりともいえないような痛みが胸を騒がせる。動揺がばれないように息を吐く隙間から漏らした言葉を黒尾はしっかり受け取ったようで。投げ捨てた傘をわざわざ預かってくれてるらしく、謝ると曖昧な返事が返ってきた。
「…どうかしたの?」
『お前なんかあった?』
思わず目を見張った。いや、あんなことがあったあとになにもなかったと言った方が不自然か。なんとかごまかそうと唇を動かすのがやっとで。
「…黒尾、彼女いたんだね、」
『……は?』
漏れた言葉に自分自身安堵と焦土。お願いだからごまかさないで、思いっきりふってほしい。そんな思いから出た言葉なのだろうか。こういうとき頭が回らないと言うのはとても不利である。
電話越しにつかれたため息になにが含まれているのか、緩くなった唇は勝手に疑問を紡いでいく。
『いねぇし』
「……は…」
『彼女なんていねぇよ』
「嘘!じゃあ、あの金髪の子は!」
今度は黒尾が疑問視する番だった。聞こえなくなった音につられてこちらまでだんまり。しばらくたって耳に伝わってきた二度目のため息で。
『そいつ、男だし』
「……はぁ!?」
ついでに幼馴染みだし、と付け加えられた言葉は耳から耳へと通過。一瞬どころか今でも理解できない。
つまり、私の勘違い?
唯一の救いは目の前に誰もいなかったことだろうか。
目に見えた安堵からか、いままで体中を占めていた思惟は一点に集中した火照りのせいでどこかへ流れ去ってしまった。
降りしきる夜雨
(嬉しがってる自分がいるなんて、)