昼休みの後半、こんな平和な時間があっていいものだろうか。まどろみのなか眠気と戦うために黒尾と夜久ちゃんとおしゃべり。女子のグループというものが得意じゃない私とその友人はお弁当が食べ終わると自然と席に戻る。そうすると必然的に二人と話すことになるのだ。いつもどうり頭だけ黒尾の方に向けると視線が交わらない。不思議とそれを追いかけると。


「黒尾くん、ちょっといい…?」


隣のクラスの坂口さん。確か男子が可愛いって騒いでたような。頭が勝手にそんなことを考えていると黒尾が席を立った。あぁ、黒尾に用があるんだっけ。いってらっしゃいの挨拶に返ってきた定番の返事に笑う。なのに隣から返ってきたのはねめつけるような視線。


「……なんなの、いったい…」

「まぁ、あらかた告白だろー」


ガタリ、音をたてて顔を預けていた腕が崩れかける。夜久ちゃんが驚愕の目を瞬かせるのは遅くなかった。それより、え、こ、告白?


「黒尾ってモテるの!?」

「モテるもなにも、」


それどころじゃないって。夜久ちゃんの言葉にあんぐり。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。そうだ、今考えればそんなことあったかもしれない。今までは気にも留めてなかったから。背中に妙に冷たいものと一緒に焦りと不安が流れ出した。これがなにを意味するのかなんて、そんなの考えたくない。


「あ、噂をすれば」


夜久ちゃんの声音に盛大に反応した体の一部。ギギギと鉄同士が擦れ合うような音を出してやっと動いた首。それと反発するように口切っていくそれ。いいですね、モテ男さん!嫌みったらしい意味を含んだそれは黒尾の顔を歪ませるのには十分で。…これ以上顔を見てると何かかやばい。思いっきり下げた頭は見事に机とコンニチハ。夜久ちゃんの心配してくれる声色に小さく頷く。


「なに、妬いてんの?」

「はああ!?」


なにをバカなことをいっているんだ、こいつは!妬いてるなんてそんなこと、
黒尾がにやにやしてるのを見てさっきとは一転、イラつきが芽生えた。それをそのまま口調に乗っけて、坂口さんのことを切り出すと。


「振った」

「えっ、嘘!?」

「え、マジ?」

「だって別に好きじゃねーし。……それにさ、」


他に気になる奴もいるし。そう言ってなぜか私を見たのは気のせいだろうか。ぶっきらぼうに空返事をしてまた窓の外に目を移した。




ずぶ濡れの恋心





(……降ったり止んだりいったいなんなの、)




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