つくづく私も学習力がない女である。というより運がないのかもしれない。手にない傘を思い出して降りしきる雨とともにため息を漏らした。こんなことなら学校に置き傘でもして置くんだった。するすると落ちていく腰はまるで今の私を表しているようで。


「……なんでいないのよばか…」


腕の間に埋めた顔の先にはやっぱり地面しかなくて。口元を潜らせた目線だけで探すと…。
──……探す?私はいったい誰を探していたんだ。なに言ってるの、私。今は部活終わりでなかなか人なんていないんだから。そう、部活終わり、で…。
私の名前を呼ぶ残像を必死に頭のなかから消し去ろうとそのまま左右に振り回す。なんで、なんで、あんたが出てくんのよ。


「……黒尾…っ」


溢れたら名前に目尻の辺りが熱くなった気がした。





* * *





まどろむ感覚が心地よい。きっとこれは起きる一歩手前の感覚である。これは、近くで誰かが私のことを呼んでいる?はいはい、今起きるから───…。


「……おい、岡崎」

「………っ!?」

「お前、こんなところで寝てんなよ」


目の前に写り出された情景に一度で体が覚醒した。反射的に辺りを見回すとすでに豪雨は過ぎ去っていて。いつの間にか寝てしまっていたらしい私の体を立ち上がらせた黒尾はそのまま歩き出してしまった。唯一はっきり昨日していない脳を無理矢理叩き起こす。携帯を確認すると時刻は、9時。部活はとっくに終わってるはずなのに。どうして、どうして黒尾はここにいるの。
口内にしまった言葉を飲み込んで、振り返る黒尾を追った。





君を待つ雨の午後





(どうしていつもあんたは、)


私の隣にいるの。















another story-side Kuroo-


最近はずっと雨だ。そろそろ嫌になってきたそれは止むことを知らない。───…そういえば、あいつ今日も傘持ってきてなかったような。外から体育館を覗けばまだ明かりは灯っていた。


「悪い、研磨。先帰っててくれ」

「え、クロ…」


最後まで聞き取らないうちに足は動き出す。きっとあいつのことだ、膝を抱えて一人で止みもしない雨を待っているんだろう。細めた目にうつった滴を払う気になれなくて。一目散に学校へと足を進めた。
自然と留まった下半身を無視するように今度はその上が動き出す。下駄箱と地面しかうつらない目に一気に疲れが溢れたのがわかった。当たり前か、帰ろうとくるりと体を回転させたときに視界にうつった茶色。半信半疑、顔を覗かせると、本当にいた。本人は俺の気持ちを知ってか、膝を抱えたまま寝息をたてていた。


「おい、岡崎?」


疲れているんだろうか、呼んでもピクリともしない彼女の髪に触れてみる。柔らかいそれを嫌う本人とは反対に俺はこの髪が好きだった。この髪も、目も、手も、岡崎の全てが。


「……好きだ」


ため息混じりに吐き出した言葉は止んでいく雨雲に吸いとられて消え去った。



(頼むから、俺以外にそんな顔見せないでくれ)




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